隣恋Ⅲ~のたりかな~ 24話


※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたりかな 24 ~

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 好き、と、キスを何度繰り返した頃だろうか。

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 はぁふっ、と愛羽さんが苦しそうに息を吸った。
 本当はまだ、唇を離したくなかったけれど、浴室から聞こえ続けていたお湯が蛇口から出る音が勝手に止まったのが気になった。その一瞬の隙を突かれて、キスを解かれてしまったのだけれど。

「お湯、止まりましたね」
「見て、きた、ら?」

 私の鎖骨に額を押し当てるようにして、キスで荒くなった呼吸を彼女が繰り返す。熱い呼気がTシャツ越しにじわ、じわと肌に触れる。

「でも、今私が離れたら、立ってられないでしょう?」

 彼女の髪にキスをした私の両腕は、しっかりとその体を抱き締めている。キスをするうちにどんどん力が抜けてゆくもんだから、抱き締めて支えているのだ。現状、支えの腕がなくなれば愛羽さんはよろめいて倒れるくらいには、私に寄り掛かっている。

 身長差を感じられるのが、立ったままのキスのメリットだが、愛羽さんがこうしてふにゃふにゃになってしまうと、この体勢はなかなかキツイものがあるかもしれない。
 だって、両手が塞がっていては、腰紐も解けやしないし、身体もまさぐれない。
 しかし代わりに、彼女の体温を存分に感じられるという点ではこの体勢のキスは秀でている。

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 なかなか難しいもんだなぁと内心悩みを抱えていると、愛羽さんが身動ぎして、顔をあげた。

「ほんっと……キス、好きだったのね……」

 とろとろに溶けた瞳が、若干の呆れを混ぜてこちらを見上げるので、ちょっと顔を寄せてみる。

「もっとして欲しいって意味ですか?」
「ベッドでね」

 揶揄うつもりで言った言葉に、完璧なカウンターアタックを食らった。
 蕩けて気怠げな感じが、色気を際立たせていて私の方が口籠った挙句、ごくりと生唾を飲んでしまった。

 解り易く反応を示してしまったせいで、愛羽さんが愉しそうに目を細める。

「何照れてるの」
「ぁ、いや、……べ、つに」
「んふふ、可愛い」

 あああ駄目だ。そうやって大人の余裕を纏わせながら攻められると弱い。
 くそぅ……どうしてこうも簡単に、一瞬でひっくり返されてしまうのか。

「おふろ、いこっか」
「はい」

 イニシアチブを取られたまま、にっこり笑顔をみせられては頷くしかなかった。

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 お互いに服を脱がせ合って……みたいな甘い展開にはならず、愛羽さんがぽいぽいと浴衣と下着を脱いで、先に浴室のドアをガララと開けた。
 充満していた熱気と湯気がもわもわと鏡を曇らせているのを視界の端に捉えて、私も服を脱ぎ捨てて、後に続いた。

「うわぁ!」

 後ろ手にドアを閉めつつ、目の前に姿を現した泡風呂に感激の声をあげる。
 人生初の泡風呂を愛羽さんと迎えられたのは嬉しい。だけどそれ以上に、泡風呂がこんなに泡立っているものだとは。
 予想を遥かに超える泡だ。

「雀ちゃん、おいで」

 先に浴室へ入っていた彼女が、シャワー片手に私を手招きした。
 近付けばささっと体にお湯をかけてくれて、お先にどうぞ、ともこもこの浴槽を促された。

「いいんですか? 先に入って」
「物凄くはしゃいでる子から一番風呂とったら可哀想だもの」

 はしゃいでなんかないですよ、と言い返そうかと思ったが、実際、はしゃいでいるのでやめておく。
 シャワーで体を流し始めた愛羽さんを横目に、浴槽へ近付いた私はそろりと泡の中へと手を差し込んだ。

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 しゃわしゃわと泡が弾ける感触が手に触れる。それでも手をずぶりと入れてみるとやっと温かいお湯に指先が触れた。それを頼りに、浴槽を跨ぎ脚を沈め、次いで腰を落とす。

 下は温かなお湯で、それより上にもこもこの泡。
 腰を落ち着けてから、泡を両手で掬ったり、握り潰してみたりしていると、向こうから愛羽さんがやってきた。

「夢中ね。お嬢さん、鼻の頭に泡つけて」
「え」

 いつの間に。と拭う手を私があげるよりも先に、微笑みながら鼻を拭ってくれた彼女の手。
 すみません、と頭を下げると、顎に泡が付いた。

 コントのようなその光景に吹き出すように笑った愛羽さんが、おじゃましまーす、と明るく言って、浴槽へと脚を差し込んだ。
 嵩が増して水位があがると、泡の位置もふわりと浮く。
 肩まですっぽりと泡に覆われた私を見て、愛羽さんは何故か、よしよしと頭を撫でてくれた。

「ペットショップでシャンプーされてるわんちゃんみたい」

 ……なんで私はよく、犬に例えられるんだろうか。

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