隣恋Ⅲ~のたりかな~ 23話


※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたりかな 23 ~

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 立ってキスをする事なんて、日常的には殆ど、ない。

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 だからこうして、立ってキスをしてみると、改めて、彼女との身長差を感じる。
 私が少し前屈みになっていても、愛羽さんは軽く、背伸びをしているくらい差はあったのか。そうと思うと、なんだか胸の辺りがムズムズする。

 ――小さい。可愛い。

 確か家のキッチンの上の戸棚へ手をのばして、危なっかしく缶詰を取り出していた事があった。あの時は慌てて、手伝おうと後ろから声を掛けた瞬間、彼女の手から滑り落ちた缶が、頭にクリーンヒットして、涙目になっていたっけ。

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 あの時は痛そうで気の毒だったけれど、可愛かったなぁ。と思い出に浸りながら、唇を離す。ゆっくり瞼を開いてみると、すでに目を開けて、私を不審そうに見つめている愛羽さん。

「……なんで、ちょっと笑ってるの……?」
「え、笑ってました? いや愛羽さんが可愛いなぁって改めて思ってた所なんです」
「……かわいくない」
「可愛いんですよ」

 むすっとする彼女の額に唇を押し当てると、私の胸元を掴んでいた手が外れて、壁に着いている腕へ触れてきた。

「ねぇ……」
「はい?」
「これ、やたらと外でしちゃダメだからね」
「は……?」

 これ? 外?

 愛羽さんが何を言わんとしているのかが分からなくて首を捻ると、腕をポンポンと叩かれた。
 いやまぁ、腕あたりの事を言ってるのは理解できてたんだけど、腕の何を外でするなと……?

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 いまいち理解が進まない私を、やっぱりむすっとした顔で見上げた彼女は、ぼそりと呟いた。

「天然キラーめ」
「は?」
「だから、壁ドンするなって言ってるの……!」
「……壁ドン。あぁ、壁ドン」

 確かに言われてみれば、愛羽さんの頭の横、肩の上に手をついているこの光景は、漫画やドラマでよくあるあの「壁ドン」だ。
 特に意識するでもなくやっていたので、愛羽さんの言葉でやっとこの状況に気が付いた。

「部屋の中ならいいんですか?」

 外でするなって事は、そういうこと?
 外だと人の目があるから。

「……違うわよ」

 うわ。すごい睨んでくる。怖い。なんだ、なんか変な事私言ったか……!?

 物凄い眼光で下から睨んでくる彼女は、大きく息を吸って、これでもかというくらいに深く深くため息を吐いた。

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「わたし以外にしちゃダメって言ってるの」

 少し強い口調で言った愛羽さんは、「もう! 鈍感」と怒っている。

「……………………」
「……なによ……」

 黙ったまま見下ろす私の視線に、たじろぎ、ちょっと頬を赤くしている愛羽さんが可愛い。

「私が、他の人にこういう事するの、嫌なんですか」
「……当たり前でしょ」

 恥ずかしそうにフイとそっぽを向く彼女の頬は、先程よりさらに、赤い。
 嬉しくてにやけてしまうだらしがない表情筋もそのままに、私は壁から手を離して、両手で彼女の頬を包むようにして顔をあげさせた。

「にやけすぎ」
「だって嬉しいんですもん」

 私が愛羽さんに対して、独占欲を全開にする事はよくあるけれど、その逆はあまりない気がする。
 だけど、他の人に壁ドンするな、なんて明らかな独占欲。これがにやけずにいられるか。

「絶対しません。他の人には壁ドン」
「……言っておくけど、その他の口説くような行動も駄目だからね」
「愛羽さん以外口説きませんけど……」

 さも私が外で色んな人を口説いて回っているような物言いに、心外だなぁと唇を尖らせる。
 だけど愛羽さんは「どうだかね」と器用に肩を竦めながら言った。

「自分が壁ドンしてるって気付かずにやるような子だから」
「う……それは否めない」
「だから心配なのよ」

 ばーか。と罵る言葉と共に、背伸びのキスが贈られてきて、私は愛羽さんを両腕でぎゅっと抱き締めた。

 ――貴女が好きで好きでたまらなくて、貴女以外は眼中にないってこと、どうやったら伝わるんでしょうか。

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