隣恋Ⅲ~のたりかな~ 16話


※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


===============

 ~ のたりかな 16 ~

===============

 枝豆をぷちりと押し出して口に入れた愛羽さんの目が、少しだけとろんとしている。

===============

 もうほとんどのお皿は空で、ところどころに残った料理を食べつつ、私は主にビールを飲んでいた。
 そして目の前の愛羽さんはとっくに、ミネラルウォーターにシフトチェンジしているのだが……。

 ――酔ってるなぁ……。

 一杯だけでも駄目だったか。と心の中でぼやく。
 まぁ……ベロベロに酔っ払ってる訳じゃないし……大丈夫か?

「ねぇ」
「はいはい?」

 でも、普段あんなにお行儀のいい彼女が、両肘を座卓に着いて、枝豆を食べるその姿はどうも、大丈夫ではなさそうに見える。

「媚薬、回ってきた?」
「えーと……」

 脈も速くないし、ムラムラもしないし、疼いたりもない。

「全然」

 私は首を横に振った。

===============

「なぁぁぁんで飲ませたのに効かないの。超人なの雀ちゃん」
「いやぁ、何ででしょうかね? 私にも謎です」

 酔ってる酔ってる。と内心苦笑する一方で、でも本当に謎だよなぁと首を傾げた。
 確かに夢現状態だったけれど、何かを飲まされた記憶はあるのだ。その何かとは空の瓶と愛羽さんの発言からして、私がまーさんから貰ったあの媚薬。

 はっきりとまーさんからは、媚薬だと言われて頂いたのだ。その薬を飲んだ。なのに、私の体に変調はなにもない。

「謎だ……」

 呟いて、たこ焼きを一つ摘んで、ビールを流し込む。うまい。
 恋人を目の前にして飲む酒は美味い。

===============

「初めて話した時もさ」
「はい?」
「瓶ビール、飲んでたよね」

 突如話題転換された流れに付いていけなかったけれど、すぐに追いついて、私は胸の奥がきゅっとなるのを感じた。

 相変わらず、酔って気怠そうに肘をついたまま、愛羽さんは枝豆を指でくるりくるりと回しながら、柔らかい笑みをその顔に浮かべている。

「ベランダから落ちそうになりながら、何か探してるの。わたしはベランダでぼーっとしてたんだけど、いきなり隣で人影がゴソゴソし始めたからびっくりしたのよね」

 懐かしむように目を細めて、ぷちりと枝豆を口の中へ押し出す。
 もそもそと咀嚼してから、お水を飲んだ彼女は、一人で語りたいのか、私に話しかけたいのか少し判断が付け辛いトーンでまた、ぽそぽそと話し始めた。

===============

「何してるんだろうこの人……って思ったけど、片手にビール持ってたから、あぁ酔っ払っての奇行かなーって。でも落ちちゃったらマズイし、見守ってたら……目が合ったの」

 私は空になったグラスを置いて、二本目のビールの栓を静かに抜いた。
 愛羽さんの話を遮らないように、ゆっくりと手酌でグラスを満たす。

「思いっきり噎せて、涙声で大丈夫って言ってる姿がなんだか可愛くて。その後にお月見しながら飲むのが好きなんだ、なんてもっと可愛い事言うもんだから。廊下ですれ違ったり挨拶したりする程度の顔見知りだったのに、話を長引かせたくなっちゃって、苦手なビールまで貰って口実にして。……馬鹿だったなぁ」

 え、何が、馬鹿?
 別におかしい所はなにもなく、昔話を極上の肴に、美味い酒を飲んでたんだけど。

 私が愛羽さんに視線をあてたまま軽く首を傾げてみせると、食べ終わった枝豆のカラをぽいと皿に入れて、彼女は苦笑した。

「もうちょっと話しない? って素直に言えばよかったのにね」

 どきっと、心臓が跳ねた。
 だって、……それって……あの日もっと私と、話がしたいと思っててくれたってこと……?

「愛羽さん」
「ねぇ」
「え、あ、はい」
「媚薬、効いた?」

 息巻いて尋ねようとしたところに話題転換されて、私は思わず、苦笑を零した。
 脈が速いのは、今、心臓が跳ねたせいで、他はなんの変化もない。

「効いてないみたいです」
「もーーー。超人」

 ぷう、と頬を膨らませた愛羽さんは、お酒みたいにミネラルウォーターをぐびぐびと呷った。

===============


※本サイトの掲載内容の全てについて、事前の許諾なく無断で複製、複写、転載、転用、編集、改変、販売、送信、放送、配布、貸与、翻訳、変造などの二次利用を固く禁じます※


コメント

error: Content is protected !!