※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたりかな 16 ~
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枝豆をぷちりと押し出して口に入れた愛羽さんの目が、少しだけとろんとしている。
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もうほとんどのお皿は空で、ところどころに残った料理を食べつつ、私は主にビールを飲んでいた。
そして目の前の愛羽さんはとっくに、ミネラルウォーターにシフトチェンジしているのだが……。
――酔ってるなぁ……。
一杯だけでも駄目だったか。と心の中でぼやく。
まぁ……ベロベロに酔っ払ってる訳じゃないし……大丈夫か?
「ねぇ」
「はいはい?」
でも、普段あんなにお行儀のいい彼女が、両肘を座卓に着いて、枝豆を食べるその姿はどうも、大丈夫ではなさそうに見える。
「媚薬、回ってきた?」
「えーと……」
脈も速くないし、ムラムラもしないし、疼いたりもない。
「全然」
私は首を横に振った。
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「なぁぁぁんで飲ませたのに効かないの。超人なの雀ちゃん」
「いやぁ、何ででしょうかね? 私にも謎です」
酔ってる酔ってる。と内心苦笑する一方で、でも本当に謎だよなぁと首を傾げた。
確かに夢現状態だったけれど、何かを飲まされた記憶はあるのだ。その何かとは空の瓶と愛羽さんの発言からして、私がまーさんから貰ったあの媚薬。
はっきりとまーさんからは、媚薬だと言われて頂いたのだ。その薬を飲んだ。なのに、私の体に変調はなにもない。
「謎だ……」
呟いて、たこ焼きを一つ摘んで、ビールを流し込む。うまい。
恋人を目の前にして飲む酒は美味い。
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「初めて話した時もさ」
「はい?」
「瓶ビール、飲んでたよね」
突如話題転換された流れに付いていけなかったけれど、すぐに追いついて、私は胸の奥がきゅっとなるのを感じた。
相変わらず、酔って気怠そうに肘をついたまま、愛羽さんは枝豆を指でくるりくるりと回しながら、柔らかい笑みをその顔に浮かべている。
「ベランダから落ちそうになりながら、何か探してるの。わたしはベランダでぼーっとしてたんだけど、いきなり隣で人影がゴソゴソし始めたからびっくりしたのよね」
懐かしむように目を細めて、ぷちりと枝豆を口の中へ押し出す。
もそもそと咀嚼してから、お水を飲んだ彼女は、一人で語りたいのか、私に話しかけたいのか少し判断が付け辛いトーンでまた、ぽそぽそと話し始めた。
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「何してるんだろうこの人……って思ったけど、片手にビール持ってたから、あぁ酔っ払っての奇行かなーって。でも落ちちゃったらマズイし、見守ってたら……目が合ったの」
私は空になったグラスを置いて、二本目のビールの栓を静かに抜いた。
愛羽さんの話を遮らないように、ゆっくりと手酌でグラスを満たす。
「思いっきり噎せて、涙声で大丈夫って言ってる姿がなんだか可愛くて。その後にお月見しながら飲むのが好きなんだ、なんてもっと可愛い事言うもんだから。廊下ですれ違ったり挨拶したりする程度の顔見知りだったのに、話を長引かせたくなっちゃって、苦手なビールまで貰って口実にして。……馬鹿だったなぁ」
え、何が、馬鹿?
別におかしい所はなにもなく、昔話を極上の肴に、美味い酒を飲んでたんだけど。
私が愛羽さんに視線をあてたまま軽く首を傾げてみせると、食べ終わった枝豆のカラをぽいと皿に入れて、彼女は苦笑した。
「もうちょっと話しない? って素直に言えばよかったのにね」
どきっと、心臓が跳ねた。
だって、……それって……あの日もっと私と、話がしたいと思っててくれたってこと……?
「愛羽さん」
「ねぇ」
「え、あ、はい」
「媚薬、効いた?」
息巻いて尋ねようとしたところに話題転換されて、私は思わず、苦笑を零した。
脈が速いのは、今、心臓が跳ねたせいで、他はなんの変化もない。
「効いてないみたいです」
「もーーー。超人」
ぷう、と頬を膨らませた愛羽さんは、お酒みたいにミネラルウォーターをぐびぐびと呷った。
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