※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたりかな 15 ~
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小さな和室に運んだ料理達を前にすると、どこかの飲み屋さんに来たみたいだった。
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「愛羽さんも飲むんですか?」
「だめ?」
「駄目じゃないけど、大丈夫ですか?」
へーきへーき、と顔の前で手を振る愛羽さんをじーっと見つめる。
バイト先で「へーきへーき」とか適当に答えるお客さんがいたら、絶対にアルコール度数の低いものをお出しするんだけど、今ここにはビールしかない。
2本の瓶ビールと、冷えたグラス。
そして愛羽さんを見比べた私は、「一杯だけですよ?」と念を押した。
昼間、ふらつく程に酔っ払ったひとだから、心配して損な事はないと思うのだ。
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むくれる彼女にグラスを持たせて、栓抜きで瓶の栓を抜く。
ビールが苦手な彼女がこれを飲むと言い出したのも驚きだが、味の濃い居酒屋メニューと一緒に飲めば、意外とビールが飲める、なんてタイプの人も居るので、要注意だ。
とくとくとく、と音をたてて3対7の割合で泡と黄色い液体を分ける。
「あ、すごい。上手」
「うちにはビールサーバーないけど、練習させられるんですよ」
「へぇぇ。わたしこれ凄い苦手なのよね。接待で注がなきゃいけない時あるんだけど」
私から瓶を受け取ろうと手を伸ばした愛羽さんの台詞に、渡しかけた瓶をぎゅっと握り直した。
「教えましょうか?」
「え?」
「うちの店で習ったやり方ですけど、注ぎ方」
「いいの?」
「ええ。差し出がましくなければ」
こちらから言い出しておいて今更だが、社会人でもない上に年下の自分が教えましょうかだなんて、図々しかったかもしれない。
ちらりと後悔が過ぎったけれど、そんな些細な事を払拭するかのように、愛羽さんはその顔に笑顔を浮かべた。
「教えてください。雀先生」
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「せ、先生って……」
「ふふ、早く早く」
「ええとですね……」
瓶のラベルは上に向けて持つこと。利き手で瓶の下部分を、もう片手で注ぎ口に近い部分を支え持つこと。
まぁこの辺りは誰でも知っている事だろうからサラッと言ってから愛羽さんに空のグラスを持たせた。
意外かもしれないけれど、最初にどばっと、怖がらずに注ぐ事。グラス3分の1までそうして注いで、徐々に勢いを絞りながら泡以外の比率を増やしていくのだ。
「最初っから最後まで、ちょろちょろ注いでると不格好だし、時間がかかり過ぎるんです。泡は最後、注ぎ終えてから膨らむのでグラスの縁から指一本くらい下で注ぐのを止めます。接待とかだと、溢れるよりは少し少ないくらいが上品でいいかと」
「おお~」
3対7の比率でグラスにできあがったビールを目の高さまで持ち上げて、感嘆の声をあげる愛羽さん。
「最初にどばっと入れてよかったんだ」
「その方が綺麗な泡が最後まで残るって習いました」
「へぇぇ、雀先生ありがとー」
「いえいえ。お粗末様でした」
愛羽さんに頭を下げられたので、こちらもぺこんと下げる。
本当は泡が減るのを待ってからもう一度注ぐとかの方法もあるにはあるが、接待ではそんな暇ないだろうし、そこまで教える必要もないだろう。
私は愛羽さんからひとつ、グラスを受け取って、「それでは」と軽く持ち上げた。
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「かんぱーい」
「乾杯」
グラスを合わせて音を鳴らし、彼女がグラスに口をつけたのを視界の端に収めて、私もグラスの泡を吸い込んだ。
「ぅひぃ……苦い」
妙な悲鳴というか呻き声というか。そんなものを出して顔を顰める愛羽さんにちょっと吹き出す。
苦いなら飲まなきゃいいのに。
口の中の苦みを消すためにも早速箸を取り、いただきますと手を合わせる彼女が可愛い。なんていうのか、女の子が箸もって手を合わせて小声で頂きますと言ってる姿は、胸にぐっとくる。
ちょっとにやけた口元を隠すべく、私はグラスに再度口を付けた。
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