※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたりかな 9 ~
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シュン……と視線を落とす。
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「朝まで?」
「……ハイ……」
さらっといつもの素行を自分でバラしてしまったので、無駄な足掻きはやめて、素直に認めた。
ここで足掻いたってどうしようもないし、少し前に愛羽さんに対して仕事のし過ぎは体に毒だ。無理をしないでくれ。と訴えた私が、ソファで朝まで寝るとかやってちゃ人の事を言えない。
「もう……」
愛羽さんが溜め息を吐くと同時に、私の左頬をむにっと引っ張った。
「風邪、引いちゃったら大変でしょう?」
吊り上がっていた柳眉が元に戻り、そこから眉尻が下がってハの字になる。
摘んでいた頬を解放した彼女の手のひらが、そっと頬にあてられて、私は窺うように、上目遣いにちょっとだけ、視線をあげた。
「雀ちゃんが風邪引いたら、わたし、嫌よ?」
「移ったら大変ですもんね……」
きっと、この優しい愛羽さんのことだ。私が風邪を引いたら色々と世話を焼いてくれて風邪菌保有者の私とたくさん接触するだろう。そうしたらやっぱり風邪は移りやすくなってしまうし、そもそも、風邪っ引きの世話だって面倒だ。
そんな面倒事を持ち込むような原因を結構頻繁にしているだなんて私ってほんと駄目なやつだなと考えた瞬間だった。
「違うわよ」
呆れた。と言わんばかりの声音が、溜め息混じりに吐き出された。
「へ?」
いったい、何が、違うのか。
否定された事に驚いて目を丸くする私の頬を、愛羽さんがもう一度摘んだ。
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「風邪を引いた貴女が、しんどい思いをするのが、嫌なの」
風邪移されたら嫌だとか小さい事思ってないわよ。と摘んだ頬をぐにぐにされる。
「ほんっと、自分の事になると無頓着なんだから」
「す、すみません……」
自分のことに無頓着な愛羽さんに、無頓着と言われる程私はひどいのだろうか?
両腕で頭を抱えるよう抱き締められながら謝ると、私のこめかみに唇を押し当てた愛羽さんが、耳の傍で息を吸う。
そんな僅かな吸息音でさえ聞こえるほど近くに、彼女の顔が傍にあるのだ。
「ばか」
冬に飲むミルクティみたいな甘さを帯びた声が、鼓膜をくすぐった。
思わず息を詰め、喉の奥でぐぅと唸る。一拍遅れてから、耳から痺れがじわわわと広がり、胸の中心に集約していく。
「大好きな人に辛い思いなんかさせたくないのよ。それに、隣に住んでるのに、風邪なんか引かせちゃったら……恋人として失格だもの」
「そんな、愛羽さんに責任なんて」
「あるの」
「な」
「あ、る、の。あるって事にしておいて? そうしたら貴女がもし風邪を引いたときに世話を焼く理由が出来るじゃない?」
抱き締める腕を緩めて顔を覗き込んで、ね? と小首を傾げて微笑まれたら、頷くより他はない。
小さく顎を引いて頷いた私に、満足気な顔をする愛羽さん。
大人の余裕というか、色気というか、私を包み込む空気を作り出す彼女に、赤面してしまう。
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「照れてる? 雀ちゃん」
「てっ、てれて、ないです」
否定するけれど、「照れてるじゃない」と赤らんだ頬にキスをされて「ほら熱いもん」と笑われる。
逃げようにも、愛羽さんの腕が私の首に絡めてあって、顔を背けるか俯けるかくらいしか抵抗の術がない。
「かわい。雀ちゃん」
「か……かわいくないです……」
だ、だめだ。愛羽さん十八番の台詞を私が言う日がくるだなんて。
俯く私の額に口付けた彼女がくすくすと楽しそうに笑みを溢すものだから、余計、照れてしまう。
「あ。ねぇ、雀ちゃん」
笑いを納めた愛羽さんが、何か思い出したように腕を解いた。
これ幸いとばかりに離れてどきどきする胸を撫で下ろす。
完全に私がイニシアチブをとっていたセックスをした日の内に、大人っぽさ全開の愛羽さんと対面するとは思わずに気を抜いていた。
相変わらず大人の魅力に弱い自分に気付かされるけれど、気付いた所で彼女の魅力は減ったりしないし、私の耐性が増す訳でもない。
だから私は、彼女に翻弄されるしかないのだ。
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