隣恋Ⅲ~のたり~ 59話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 59 ~

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「まって。雀ちゃん。ちがうの」

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 口を突いて出た。
 後悔を、このままにしておいてはいけない。

「だめじゃないの」
「え……?」

 やっぱり雀ちゃんの表情が見えなくて、彼女の不審そうな声だけが耳に届く。
 わたしは胸を隠すのをやめて、両腕で身体を起こす。

 え、え、と戸惑いの声をあげる雀ちゃんの体の下からするっと抜け出すようにして、今まで頭を預けていた枕にお尻を預けて座る。

 当然、浴衣は完全に脱げてしまって、わたしの身体を覆う布としては、雀ちゃんが過剰に反応した紐パンだけになってしまった。
 だけどもわたしは、羞恥心よりも雀ちゃんを大事にしたくて、枕に座った状態で上半身を捻り、ヘッドボードの向こうにある照明のスイッチに指を伸ばし、ツマミをぐるりと回した。

 ベッドの天井にある照明が全力でわたしと雀ちゃんを照らす。
 軽く、目が眩んだようにもなるが、数回瞬きをすれば、視界は元通り良好になった。

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「ぃ、ぇ……ぁっと……」

 明らかに動揺を隠せないように、雀ちゃんが目を泳がせる。その理由はきっと、わたしの姿を目の当たりにしたからだと思う。
 やっぱり露天風呂の全裸と、ベッドの上の下着一枚は随分と彼女の中では価値が違うらしい。

「あのね、雀ちゃん」
「はっ、はいぃっ」

 シュバッ、とその場に正座をする彼女はまるで「おすわり」をする犬のよう。
 だけど別にそんな畏まって聞いてもらうような事ではないんだけど、まぁいいわ。

「さっき、手を舐められた時にだめって言っちゃったのは……気持ち良すぎてあのままされてたら喘いじゃう予感がしたからなのね? だから、嫌とかじゃないの」
「えっと……はい」

 こく、と頷く雀ちゃん。

「それとね、今雀ちゃんが照明暗くしてくれた時に言ってたでしょう? 顔が見えないと気持ちいいのか我慢してるのか分からないって。確かにわたしは我慢しないで嫌だとか痛いとか言うって約束したけれど、だから顔を見なくていいし、照明を落せばいい、とも思ってないの。ごめん、わかりにくいけど、わかる?」

 こく、と頷く雀ちゃん。
 だけど、その頷き方と、返事の声がないことで、わたしは片眉をくいとあげた。

「……ホントに分かってる?」
「スミマセン、分かってません」

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 わかってないのに分かったフリしないの。と雀ちゃんの頭を小突くと、彼女の視線がちら、とわたしの裸の胸に注がれた。
 たぶん、小突いた拍子に揺れたんだと思う。

「こら。どこ見てるの」
「愛羽さん、話が脱線してます」
「誤魔化さないの」

 もう一度頭を小突くと、今度はわたしの顔を真っ直ぐに見つめる雀ちゃん。
 わたしは咳払いして、

「だからね? 雀ちゃんが、わたしの事を気遣ってくれて顔や様子を窺いながらしたいって思ってくれたなら、電気は落とさなくていいと思ったの。ついさっき」

 ほんとついさっきまで、それに気が付かなかったのはわたしが悪いと思う。ゴメン。と謝れば、雀ちゃんは首を振った。

「いやそんな。恥ずかしいのはそんな、すぐ変わるものじゃないですし」

 手をふり、首をふり、「いいんですよ、電気は消して」と言う雀ちゃん。
 それは彼女の優しさだし、気遣いだ。

 だけどまだ、わたしはついさっき気が付いたことの全てを伝えられてない。

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 いやいやいやいや、という具合に振っていた雀ちゃんの手をとり、きゅっと握った。

「さっきね? 雀ちゃんの表情が見えなくなったときがあったの」
「え……」

 いつ、とはハッキリ告げないけれど、賢い彼女の事だ察しくらいついているだろう。雀ちゃんに、握った手を、握り返される。

「そこに居るのは雀ちゃんで変わりなんてないのに、なんだかちょっとだけ不安で、あぁ雀ちゃんもこういう気持ちなのかなって思ったの」
「……あいはさん……」
「相手が何考えてるのか、はっきりわからなくて、読み取る為の目も表情も見えなくて。それってすごく、怖いし不安よねって、やっと気付いたの」

 微笑んでみせて、転がっていたピンクローターの紐を引っ張って引き寄せ、持ち上げる。

「これ、使うのは、雀ちゃんだって処女だもんね? それは、怖いし、不安だし、電気つけて、顔見ながら、したいよね?」

 使われるわたしが処女だと主張はしてきた。
 だけど雀ちゃんだって、これを初めて使うのだ。

 同じ処女なのに、わたしばかり、優先されていては、いけない。

「ごめんね? 気付くのが遅くなって」

 言いながら、ローターを置いて、彼女の頭を撫でると、雀ちゃんが名を呼びながら握っていた手をぐいと引き寄せた。

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