※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたり 39 ~
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だけど当然、わたしの体は動かなかった。
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「行かないで」
「ぁっ、だ……って……!」
わたしが逃げる原因は雀ちゃんの息だってば! と叫びたい。
だけど彼女は構わず、四度目の深呼吸をしてから、ぱくりとわたしの首に噛みついた。
「ひぁ、っ、ン、あっ……ちょっと……っ!?」
待って。待って待ってまって。
だ、誰が噛んでいいって……っ。
キスマークをたくさん付けて、とわたしはお願いしたのに、彼女はまるで吸血鬼みたいに首に噛みついている。
痛いということはない。ただ、硬質物の歯の、慣れない感触が堪らないのだ。
わたしは逃げる意思も失くして、ぞくりとする首を竦めた。片手は雀ちゃんの背中の浴衣を掴み、もう片手は彼女の側頭部よりもやや後ろめの髪に縋る。
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鳥肌の立った腕からは、縋る力さえ抜け落ちてしまいそうなのだけれども、そんな弱い力でも何かに縋っていないと、耐えられない。
――どうしよう、このままじゃわたし、頭おかしくなっちゃう……っ。
さっきまで甘々の雰囲気だったのに、突然与えられた弱点への強制的な愛撫。わたしがお願いしたこととはいえ、まだそこまで体の準備は整っていなかった。
そこにこんな、慣れない類の快感を与えられると、腰は抜けてしまいそうだし、思考だってまともに出来そうにないくらいになっている。
閉じた目の端に涙が滲んだ頃、雀ちゃんの歯が退けられ、唇も顔も、ゆっくりと離れた。
「はっ、……はぁっ……」
「そう。そうやって私に掴まっててください」
どこか満足そうにわたしを見下ろす彼女は肩を押さえていた手で、わたしの目尻の涙を拭った。
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「……す、ずめちゃん……」
「はい?」
にこやかに、首を傾げる彼女の瞳。そこには情欲の火が灯っているものの、そんなに大きいものではない。
「……なんで、かむの……」
息を整えながら、彼女が”首に噛みつく”行為に至った経緯を知りたくて問う。その問いには少し、落ち着くための時間稼ぎの意味もあるのだが。
「愛羽さんが、可愛い事言ったのと、あと、どこか行っちゃいそうな気がしたからですよ」
しれっと答えた彼女は、どこにも行っちゃ嫌ですよ、と言いながらわたしを抱き締める。
頬をわたしの耳に擦り付けるみたいにするその仕草も、逃げかける獲物の首に噛みついて押しとどめようとする行為も、まるで、ネコ科の大型動物ではないか。
普段犬みたいなくせに、と心の中で呟きながら、甘えるような仕草の彼女にきゅんとする。
やっと力が入るようになってきた手で、彼女の頭を抱き締めて、髪に音を立ててキスをした。
「どこにも行かないから、安心して」
髪の隙間から見える耳に囁く。
――もしかしたら、だけど。
落ち着いたように見えるけれど、まだ彼女の胸の内は穏やかではないのかもしれない。
枕の横に転がっているだろうあの玩具。
それを使うとどうなるのか分からないその不安に苛まれていて、体を離そうとしてしまったわたしの行動がその不安を増長させたのかもしれない。
いや、でも、単純に、昂って噛みたくなっただけかもしれないけど。
――半分半分くらいの、理由かな?
見当をつけて、わたしは彼女の背中に回していた腕で、その体を抱き締めた。
頼りがいがあるように見えても、この細い体の雀ちゃんは女の子で、わたしよりも年下の子だ。
守ってくれるばかりではない。
わたしだって、守ってあげなければ。
「大好きよ、雀ちゃん」
母性というものがわたしの中にあるならば、今、胸が熱くなったこれが、そうなのだろうか。
甘く熱いものを胸に、わたしはもう一度、彼女の髪にキスをした。
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