隣恋Ⅲ~のたり~ 36話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 36 ~

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 どうやら、腹を括ったようだ。

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 相変わらず、顔はすこし赤いけれど、どこか、吹っ切れた様子の彼女がわたしと額をこつんと合わせた。
 至近距離でわたしの瞳を覗き込む雀ちゃんの眼は、どこか心配そうな色を湛えているものの、その芯はしっかりとしている。

「愛羽さん」
「ん?」

 僅かに弧を描いた目で、彼女への信頼を伝えられるだろうか。
 どうしたら、貴女をこの上なく信用して、身を任せられる恋人だと思っていると、伝えられるだろうか。

 鼻先をすりと寄せてくる彼女に愛しさと恋情が込み上げる。

「大好きです」

 雀ちゃんの瞼がゆっくり閉じていく。それを見届けるように、一呼吸遅れて、近付く唇が触れると同時に、わたしも目を閉じた。

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 優しく重なった唇は、甘く甘く互いを啄み始めた。
 しかし、ほどなくして彼女がふいに笑い始めて、そのキスは甘い余韻を陰に潜めた。

「なぁに、思い出し笑いなんかして」
「すみません。だって、あの時色仕掛けしてたのかーと思ったら、なんかおかしくて」

 すみません、と謝った割には、まだクスクスと笑みを転がす雀ちゃんは、わたしがベッドに来てから誘いに誘った事を、キスしながら思い出していたようだ。

「むー」

 笑うことないでしょう? 貴女だってそのあと、焚き付けるようなキスしてたって聞いたんだけど。
 抗議する代わりに、口角を上げている唇に、ちょびっと噛みつく。
 痛くない程度にあぐあぐと甘噛みしてから解放すると、雀ちゃんはやっぱりまだ笑っていた。

 でもその笑みは、おかしくて仕方ないというものではなくて、柔らかくて和やかなもの。
 軽く弧を描いた目が、こちらをまっすぐ見つめていて、わたしは視線を射止められた。

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「どうして私はこんなに愛羽さんが好きなんでしょうね?」

 ちょっと冗談めかした物言いで、そんな台詞を零す雀ちゃんは、わたしが今し方噛んだ唇を覗かせた舌でぺろりと舐めた。
 まるで、猛獣が舌なめずりするみたいなその光景を視界の端に映されて、わたしの心臓がぐんと温度を上げる。

「……わたしに答えられる質問じゃないのは、確かね」

 自分のどこに恋人が惚れたかなんて分からないし、もし仮に分かっていたとしても「ココに惚れてるんでしょ」なんて言える強者がいるだろうか。

 瞳に困惑を浮かべてみせると、雀ちゃんはわたしの頬にキスを落とす。

「こんな言葉使ったら、女性としては手抜きしてるなと思われるかもしれないんですけど。私は愛羽さんの全部が好きなんですよ」

 ありきたりなんですけどね、と笑ってみせる彼女の言葉を、手抜き、だなんて思わない。
 付き合ってきて、大体彼女の性格は理解してきたつもりだ。
 真面目が服を着て歩いているような彼女が、「全部」と言えば、それはきっと、本当に、全部なのだろう。

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「笑った顔も怒った顔も、嬉しそうな顔も悲しそうな顔も、泣き顔も」

 そこで言葉を区切って意味有り気にわたしの瞼に唇を寄せないでちょうだい……。

「全部、大好きなんですよ」

 へへ、と照れくさそうにする彼女が、可愛い。
 

「どうして私なんかに、社会人で大人でカッコよくて可愛いお姉さんが好きだって言ってくれるのかは、ちょっと未だ謎なんですけどね」

 ちゅ、ちゅ、とキスの雨を顔中に降らせながら、雀ちゃんは笑った。
 そんな彼女の顔を両手で包んで捕まえておいて、わたしは唇を重ねる。
 ゆっくり、あまく、吸い合った唇を離して、見上げる。

「そんなこと言ったら、わたしも謎で仕方ないわ」

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