※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたり 35 ~
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忘れた頃にひょっこりと姿を見せる、それ。
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彼女がもっとも恐れている「ひとに嫌われる」という事象。
優しくて、格好良くて、わたしが自慢できる恋人の最大の弱点。「嫌われる」
彼女の過去について詳しく尋ねたことはない。想像するに、小中高のどこかで誰かにひどく「嫌われた」経験をもつのだろう。
そしてそれはトラウマとして彼女の中に深く深く根付いて、常に付きまとっている。
何か特定のスイッチが入ってしまうと、彼女は途端に臆病になり、全ての事から手を引いて、殻に閉じこもってしまいそうになる。
今、開拓できている世界だけで十分だと。
この安全域ならば、自分は楽に呼吸が出来て、生きていけるんだと。
それが、悪い生き方とは言わない。
トラウマの傷が癒えて、克服できるようになるまでは、安全域に居るのが好ましい。
しかし、ただただ、なんの努力もせずにその安全域に漂っているのは…………わたしは間違っているのではないかと、思う。
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だからわたしは、彼女の弱点の正体を掴んだときに、雀ちゃんのトラウマに寄り添うことを誓ったのだ。
ただ遠くから「失敗を恐れるな」だの「外の世界に目を向けろ」だの綺麗事を並べるのはいとも簡単だ。
そんなのは、上辺だけの友人とも呼べないような知人に任せておけばいい。
恋人であるわたしが、彼女の隣で、最も近くで、してあげられること。
それは、失敗を経験させることだ。
得意な事だって、苦手な事だって、失敗と成功を繰り返して成長してゆく。
得意な事は失敗が少なく、幸福感が強いから、得意になる。
苦手な事は失敗が多くて、悔しかったり、恥ずかしかったり、負の感情をたくさん生み出すから、苦手なのだ。
トラウマは、苦手な事の極み。
本能的な恐怖心や痛みさえも伴う強い印象を残す経験だから、トラウマとなるのだ。
だが、そのどれも、克服するには、何度も同じような事を経験して、成功を積み重ねてゆくしかないのだ。
その道中、失敗はあるだろう。
だけどそれでも、成功を重ねるしかない。
その苦行を、わたしは、付き添いたいと思っている。
成功すれば彼女を褒めるし、一緒に喜ぶ。必要ならばここがナイスプレーだったねと印象づける。
失敗すれば、慰めるしフォローもケアもする。折れないように背中を撫でて、肩を貸し、支えになる。
そして、わたしの身体や精神が実地で使えるならば、使ってくれて構わない。ていうか使える機会があるなら、絶対に使って欲しい。
他人の「雀ちゃんを嫌いになる」という感情はコントロールできなくとも、わたしの感情はコントロールできるし、そもそも、彼女を嫌いになったりなんかしない。
そう言いきれるだけの関係を、雀ちゃんがわたしと築いてくれたからこうして自信を持って言えるのだけど、この事実を今の彼女は、理解は出来ても納得はできない。
誰だって嫌な事をされたら嫌いになるし、嫌いになられない事象なんて存在しないのだ。むしろ、自分は嫌われやすいのだから、と、思い込んでいる彼女は、私の心理に、納得は出来ないし、していない。
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「でも、つ、使ってみて、嫌だったり怖かったりしたら……」
「その時は我慢なんてしないわよ? ちゃんと、嫌だから止めてって言う」
そしたら雀ちゃんはちゃんと、その指だけでわたしをイかせてくれるんでしょう? と冗談めかして言えば、カクカクと頷く雀ちゃん。
「だったら、大丈夫。わたしは雀ちゃんの事信用してるし、雀ちゃんだって、わたしが結構ハッキリ物を言う性格だって、そろそろ分かってるんじゃない?」
じゃなきゃマナー叩き込むとか言わないから。と安心させるように笑顔を見せてあげると、彼女はようやく、その顔に笑みを浮かべてくれた。
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その笑顔にほっとしながら、頬に添えた手で彼女を引き寄せて、キスをする。
数回、音をたてて唇を啄むと、随分と彼女の瞳が柔らかい色になった。
「ほんとーに、いいんですね?」
「ええ」
「絶対、我慢とかしないでくださいね?」
「痛い、嫌だ、は我慢しない。気持ちいいは我慢する?」
「そこは、まぁその、我慢しないというか、するというか。口に出して頂けると助かります」
「恥ずかしいけど、やってみるね」
甘く、淡く、唇を啄みながらの問答。
昔と比べると、随分、彼女も積極的になってくれた。
でもこうして、「失敗するかもしれないし、そうなったら嫌われるかもしれない状況」に後退りせず挑戦してくれるようになったのは、ここ最近のことだ。
確かあれは、家のお風呂で、過去も未来もあげられないけれど現在だけは貴女にあげると言葉にして伝えたときくらいからだろうか。
わたしの言葉が、彼女の肉となり血となり力となるならば、こんなに嬉しい事はない。
なにせ、人間的成長に、恋人という名目はあれど、他人であるわたしが役立っているのだ。
教師でも上司でも先輩でもないわたしが。
それはこの上なく幸せであり、愛しさの増すことだと思った。
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