隣恋Ⅲ~のたり~ 34話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 34 ~

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 わたしの感情のひとつでも見逃さないように、じっと見つめてくる雀ちゃんの瞳が鋭い。

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 その熱にドキリとしながらも、わたしは頷いた。

「わたしが素直なうちに使って。どんな反応するのか、見てみて?」
「ほんとに、使いますよ?」

 いいんですか? と念を押す彼女を引き寄せて、その口を塞ぐ。

 ラブグッズ片手に、ふぐ、とくぐもった声を漏らす彼女の唇をぬろ…と舐め上げてから、わざと唾液の糸を繋いで、唇を離す。
 その銀糸の糸がプツンと切れて、わたしの唇へと落ちる光景を見せ付けて、指先で濡れた口元を拭った。

「初めてだから、優しくしてね?」

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 煽情的な光景を見せ付けてからの爆弾発言に、彼女は溶けかけていた瞳を驚愕でいっぱいにした。

「だ、え、これ、初めて使うんですか!?」
「うん」

 ――そういう反応するってことは、まぁ、そう考えてたわけよね。

 わたしがラブグッズ経験者だと。もしくは大人の玩具の玄人だと。

 その丸くしている目をぶすりと指で突いてやろうかと思うくらい失礼しちゃう。
 ひとをスキモノ扱いして。

 ……でもされてもおかしくないような、色仕掛けはしてるんだから文句は言えないか。

「初めてなんだ……」

 呆然と呟く彼女が、気を取り直したみたいにわたしを見下ろしてくる。
 まじまじと、というか。しげしげと、というか。
 ”へぇぇ愛羽さんって玩具、使ったことなかったんだぁ”みたいな顔付きで。

「あのね、雀ちゃん」
「へ? あ、はい」
「改めて聞くけど、わたしのことどう思ってるの」
「経験豊富なおねーさんだと思ってますけど」

 合ってますよね? と言わんばかりの顔。
 ……やっぱりね、と思う一方で、経験豊富と思わしめるような事ばかり、自分は普段しているんだろうかと真剣に悩む。

 普通の人って色仕掛けとかしないのかしら? いやでも雑誌とかに、彼をベッドに誘う方法! とか特集組まれてるんだけど……?

 ま、まぁいい。世間とのズレとか、今はいいのよ。

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「そりゃ雀ちゃんよりは経験はあるけど」
「あるんだ……」
「うるさい。そこは今はいいの。貴女よりはあるけど、これは今まで拒否してきたの」

 顔の横にある雀ちゃんの手に握られたピンク色を小突いて、キッパリと言っておく。経験人数に関してはまぁ妥当な推理だけど、ラブグッズをほいほい使ってきたなんて誤解をされたまま、コレを使ってえっちはしたくない。

「拒否、してきたのに、なんで今日は使う気になったんです? 飲んだから?」
「アルコールのせいなんかじゃなくて」

 酔っただけで使いたいと思っちゃうような人格だったら、この歳ではとっくに使用経験があるだろう。
 そうではない。

 わたしは苦笑して、首を振った後、彼女の頬に手を添えた。

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「貴女だからよ」

 軽く眉をあげた彼女は「どういうこと?」と首を傾げる。

「雀ちゃんにだったら、わたしの事任せられるから。信用できる人で、わたしの事傷付けたりしないって思ったからよ」
「よ、酔っ払いですよ?」

 まさか、自分が?
 そんな大層な、大人の玩具初体験という役割を担っていいのかと彼女の目が狼狽えている。

 雀ちゃんは自分を格下げさせようと、乾いた笑いを立てながら、素面じゃないぞとおどけてみせている。

「全く酔ってないとは言わないわ。でも、ほとんど素面でしょ? そのくらい見てたら分かるわよ」

 それにね、と続けながら、自己評価の低い雀ちゃんに目を細めて、少し汗ばんでいる首を撫でた。

「酔ってたとしても、貴女になら任せられるから」
「で、でも」

 彼女が自分に自信を持てない子だというのは、薄々気が付いている。
 だからこそ、この子は理性も強く、自制心が人よりも幅をきかせているのだ。自信のない自分を守るための手段として、この子が、培ってきた防護術。

「わたしの初めてを担うのがそんなに怖い? 失敗するかもしれないって」

 図星を指された雀ちゃんが、ゴクンと喉を鳴らした。
 やっぱり、そういう事を、心配していたようだ。

「だったら、どこかで経験してきた方がいいかしら?」
「っ絶対だめです!」
「即答してくれて嬉しいわ。……、だったら、ね? 雀ちゃん」

 彼女の身体に腕を回して、抱き締めた。いつもよりも強めに、彼女の不安を溶かしてあげられるように。

「失敗したとしても、絶対嫌いにならないって約束するから。わたしの初めて、貰ってくれない?」

 何よりも、嫌われる事を怖がる雀ちゃんの核を、わたしは突いた。

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