隣恋Ⅲ~のたり~ 29話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 29 ~

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 躊躇いを乗せた唇が、ゆっくりとわたしのそれを啄む。

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 まるで音を立てると叱られでもするみたいに、おずおずと啄んでくる唇が少しだけ、くすぐったい。
 撫でるような淡いタッチで、はふ…はふ…と上下の唇をそれぞれされると、意図的でなく、吐息が漏れる。

 その吐息に、ピク、と彼女の唇が震え、動きを止めた。

 ――あ……いけない……。

 宥めるように、誘うように、こちらからも雀ちゃんの唇を啄む。
 彼女のタッチを真似するように、淡く、もどかしいくらいに、ゆるやかに。

 雀ちゃんがキスを「一回だけですからね」と言ったのには理由がある。
 きっとそれは、制限を設けなければ、制御が出来なくなると自分で理解しているからだと思う。
 自分の中にルールを作らなければ、どうなってしまうのか。ある程度、予想できていたのだろう。

 それすなわち、甘事を、一瞬でも、想像した、ということだ。

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 わたしの吐息を浴びて、動きを停止してしまっていた雀ちゃんが、淡く撫でるわたしの唇を捕まえた。
 相変わらず、その力加減は弱いと表現できるほどに淡いものだけど、零れる吐息の温度が、変わった。

 頬や、キスに濡れた唇を熱い吐息が撫でては霧散する。
 思わず、声を漏らしてしまいそうなところを何とか、喉元で堪えて、彼女のキスに動きを合わせる。

 何度も、何度も、粘膜を撫でては擦り合わせ、僅かに付着した唾液を塗り広げる。薄く広げたそれは、互いの呼気の温度ですぐに存在を失くしてしまうから、時折、覗かせた舌先で掠めるように唾液を塗って、わたし達はまたそれを、薄く薄く、伸ばすようにキスをした。

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 ただのキスだけど、何故か、いつも以上に甘く、興奮を煽る。

 這うようにじれったい動きが、わたし達のそれをいつもの数十倍の効果をもって興奮に繋げているんだろうけれど、それにしたって、なんという前戯だろうか。

 路上でも交わされる行為のキスなのに、こうしてベッドの上で甘く交わせば、これほどまでにない昂りを湧きあがらせる行為。

 すでに速くなっている鼓動を支えるように、呼吸も少しずつ、速く、浅くなる。

 雀ちゃんにブレーキをかけさせないため、出来るだけ吐息も声も息も我慢していたけれど、もうそろそろ、限界が近い。
 頭もぼうっとしてきているし、息も苦しい。

 彼女の肩の浴衣を掴んだ手は、若干震えかけているし、出来れば、雀ちゃんの首に回して、抱き着いて縋りたい。

 そして何より、声を我慢しているのが、一番堪えて仕方ない。

 ぞくぞくするこの快感を、いつもは声に乗せて吐き出すのに。

 ラブホテルの個室に居るのに、まるで、誰かに見つからないよう声を殺して隠れながらキスしているみたいだった。

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 先に、唇を離したのは、雀ちゃんだった。

 顔が離れてゆく気配に寂しさを覚えながらも、はぁっと甘ったるく息を吐く。そのまま息を吸い込んで、肺に酸素を取り込むと同時に瞼を開く。
 一瞬ぼやけた視界がクリアになると、正面のそのひとと、視線がぶつかった。

 隠しきれない火種は、明らかに火となり、燃えている。
 ゆらりと震えたその瞳の奥の火に、わたしはぞわりと快感を覚えた。

 ――目、……っ、みた、だけで……?

 信じられない。
 だって、キス……それもそんな、激しいのとかじゃなくて、キスしただけなのに……?

 途端に自分の鼓動も目立つようになって、動揺が増加する。

 落ち着かなきゃと思うけれど、項の肌は余計粟立つし、浴衣を握る手にも力が入らなくなってゆく。

「すずめ、ちゃん」

 計画も打算もなく、零れた声は切なかった。若干掠れた声がそう思わせたのかもしれない。

 気付けば、ふわっとわたしの頬に、触れた彼女の手。それに一瞬気を取られた隙に、彼女の瞼が、その火を宿した瞳を覆い隠した。
 そしてそのまま、鼻から息を吸って、吐いた後、瞼を開いた彼女のその目からは消化された火種しか、見当たらなかった。

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