隣恋Ⅲ~のたり~ 27話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 27 ~

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 ん゛、と短く詰まらせるように彼女が唸った。

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 彼女の腕枕に甘えているわたしの目線はちょうど、喉に注がれていた。

 今からとことん、彼女に色仕掛けをすると決意したのだ。初っ端から上目遣いなんていう、効果の大きい技を出してはいけない。

 まず手始めに、と、顔を上げず、ぽそりと要求したわたしの声はどうやらちゃんと届いたようで、背中を撫でていた手が跳ねて止まった。

 だけど軽い咳払いをした雀ちゃんが、白々しく「なにかいいました?」と若干上擦った声で尋ねてくる。

 ――これはやっぱり、理性という分厚い壁を壊すのは苦労しそうだわ……。

 のぼせかけたんだ、とか。酔っ払ってるんだ、とか。そういう事を気にかけてくれて、弱ったひとに襲い掛かるのはよくない、なんて考えていそうな彼女。
 寝起きを襲う事すら、「悪い事だ」と遠慮するような子だ。

 病人ではないけれど、体調不良の人間を襲ったりする訳がない。

 だが、そこを上手く、転がすのがわたしの腕の見せ所。

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 雀ちゃんの脇腹あたりに、手をやり、浴衣を握った。くい、とそれを引っ張って、目線は伏せたままだけど、軽く、顎を上げる。

「キスして」
「う」

 はっきりと聞こえたいつもの癖。
 確実に、わたしに色気は感じている。

 よしよし、と内心笑みが浮かぶけれど、表情は決して動かさない。

 これできっと、雀ちゃんはキスくらいしてくれるはず、と予想して、わたしはじっと動きを止めたまま、彼女の唇を待った。

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 しかし、待てど暮らせど、雀ちゃんがこちらに顔を寄せる気配はない。
 葛藤してるのかしら?

 内心首を傾げてから、心の中でゆっくり、10数えた。
 それでも何もしない彼女を不審に思いつつ、わたしはもう一度、彼女の浴衣を握り直して、くん、と引いた。

「雀ちゃん……キスして」
「う、ぇ、……っと……」

 んー……? 声はやっぱり上擦っていて、動揺もみられるし、結構ダメージ与えられてると思うんだけど……?

 何かが足りないようで、もうひと押し、といったところなのだろうか。
 仕方ない。キスした後くらいに上目遣いをしようと思っていたんだけど、繰り上げてしまうしかない。

「……だめ……?」

 浴衣を握っていた手を緩めて、切なさと心細さを前面に出して、伏せていた視線をゆっくり持ち上げて、雀ちゃんを見上げた。

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 眉間にシワを刻んで、唇を真一文字に引き結んで、真っ赤な顔をした彼女が、そこに居た。

 わたしの背中を撫でる手はとっくに止まっていたし、腕枕の腕は妙に力んでいて硬い。

 見上げた彼女の瞳が軽く見開かれたあと、ためらうように、ふるっと揺れた。

「だ、だめじゃないですけど……」

 彼女はそこまで言うと、わたしを見ていられなくなったのか、くりっと首を巡らせ天井に目を向けながら、大きく息を吐いて、吸った。
 その深呼吸で、精神を落ち着かせる訳にはいかない。

 更に、雀ちゃんに揺さぶりをかけるために、わたしは彼女の浴衣に触れていた手を引く。

「嫌、だったら、いい」

 と消え入りそうな声で、告げた。

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 我ながらこんな芝居がよく打てるもんだと、呆れそうになる。けれど、ここまできたらとことんやって、雀ちゃんに抱かれたあと、ちゃんと彼女のフォローとケアをしないと。

 ゆっくりと視線を落として、再び喉のあたりに視線を注ぐ。
 そんなわたしの耳には、焦ったような彼女の声。

「いっ、嫌な訳ないでしょう!?」
「……だって」

 して、くれないし。と途切れ途切れに言いながらさらに俯くと、背中にあった手がふいと持ち上げられて、雀ちゃん自身の頭に乗せられた。そのままぐしゃぐしゃとかき回している音がするけれど、わたしは切なげな表情を保ったまま、俯いていて、彼女がどんな表情で頭をかき回しているのかを見ることは叶わない。

「愛羽さん」

 わたしの名前を呼んだ後、雀ちゃんは「はぁっ」と勢いよく息を吐いた。まるで、決心するようなその仕草に、わたしの期待は膨らむ。

「1回だけですからね?」

 ……。

 ……どうやら、まだまだ、理性の壁は、分厚く屈強で、崩壊を知らないようだった。

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