隣恋Ⅲ~のたり~ 25話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 25 ~

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 まるで、昨夜のデジャヴ。

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 昨日の夜も、こうしてベッドに連れて来られた気がする。

 ベッドの端に座らせられて、小さく喉を鳴らす。

 雀ちゃんの腕が、背中と膝裏からするりと抜けていって、離れた温もりに寂しさが込み上げると同時に、心臓の高鳴りが増す。

 ――やっぱり、これから……。

 抱かれるのだろう。

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 全身に血を送り出す心臓が、痛いくらいに煩いくらいに、鳴っている。

「確か水がここにありましたよね」
「み……?」

 ず?

「あ、あったあった。冷えてはないけど、まぁ仕方ないですね」

 いつの間にそちらへ移動していたのか、L字ソファの横にあるガラス戸の戸棚を開けて、雀ちゃんがミネラルウォーターを一本取り出して、蓋を開けながら戻って来る。
 確かにあそこにはティーセットや電気ケトルが置いてあった。その隣にはミネラルウォーターが2本、あった。

 その、どこにお水があるとかはいいんだけど……ていうか、”どうでも”いいんだけど、…………わたしは目の前に差し出されたペットボトルを見つめた。

「はい。飲めるだけ飲んでください」
「え、あの……」
「いい子だから、飲んでください?」

 まるで、幼児に言うみたいに優しい口調で、再度、勧められたら、受け取らない訳にはいかない。
 数口、ちびりちびりと飲むけれど、常温のミネラルウォーターはあまり美味しくない。

 渋い顔をして雀ちゃんにそれを返すと、「もう飲めませんか?」と首を傾げられた。

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「おいしくないもん」
「じゃあ、もう一口だけ、飲んでください。それだけでいいですから」

 諭す言葉に従いながら、どうも、嫌な予感がするなぁ……と内心、独りごちる。

「はい。よく飲めました」

 やっぱり、幼児に言うみたいな口調。
 そしてこの慣れた一連の動作。

 蓋をしたペットボトルをサイドテーブルに置いた雀ちゃんは、わたしの頬にそっと手をあてて「……うーんやっぱり熱いな。火照ってる」と呟いた。

 これは、やっぱり……。

「じゃあ、横になってください?」

 ――酔っ払い扱いされてる。

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「ねぇ、3%で酔ったりしないったら」
「そうですねぇ」

 よしよし、と頭を撫でられて、にこやかに微笑まれる。

「愛羽さんは酔ってないんですね」
「うん」
「じゃあ、一緒におひるねでもしましょうか」
「……」

 黙ったわたしの横を通り、大きなベッドの中央まで行った彼女が掛け布団をめくりあげて、枕の位置を直して、ぽんぽんと叩いて誘ってくる。

 いつだったか、彼女に酔っ払いの対処法には、話をする際には否定をしないこと、と聞いたことがあった。
 それに、水を飲ませてアルコールの体内濃度を下げることも、安静にさせるということも、今まさに、だ。

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「ほらほら、愛羽さん。ここのベッド、ふわふわで気持ちいいですよ?」

 来てみてください。と笑顔で、ぽふぽふと布団を叩く彼女は、お手本のように寝転がった。

 ――この、果てしなく置いてかれた感というか、肩透かし感というか……。

 勝手に一人で盛り上がって期待した部分はあるのだけど、雀ちゃんにだって責任はあるはず。あの鏡前でのキスはなんだったのよ。一体。

 あんないいムードで、まるで恋愛ドラマか映画みたいに、倒れそうになったのを抱き留めてじっと見つめ合った後キスとか。そりゃ期待もするし、盛り上がりもするわよ……! その後抱き上げてベッドインしてるし!

 ここまでの流れでどうして「おひるね」になるのか。

 そりゃああの時ふらついたわたしの事心配して、酔いを冷ましてくれようとしているってのは分かるんだけど……!

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 その優しさが理解できるぶん、邪険には出来ない。
 だけど、この期待に熱くなった身体はどうしたらいいのか。

「……」

 口を一文字に引き結んだまま、横向きに寝転がって手招きしている雀ちゃんの傍まで、四つん這いで寄る。

「ねぇ!」
「はい。なんですか?」

 寝転がりはせず、彼女のお腹の前あたりで、ぺたんと座る。

「酔ってないんだけど!」
「そうなんですね。愛羽さんは酔ってないのかぁ。じゃあ、寝転がれます?」

 あああもう分かってない! 絶対に、酔っ払いの戯言だと思ってるじゃないのこの対応!

「ほらほら。コロンは? 愛羽さん」

 なにがコロンよ。わたしは犬でも子どもでもないんだから。
 貴女に抱いて欲しがってる女なんだからねっ。

「イヤ」

 フンと鼻を鳴らさんばかりの勢いで、わたしは言い放った。

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