※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたり 11 ~
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と、いっても、そんな時間の猶予がたっぷりある訳じゃない。
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だって、玄関なんてたかが数歩。
往復で30秒未満だ。
このまま寝転がっていたら、雀ちゃんは自分のカツカレーが冷めるのも構わず、襲ってきそうだから危ない。
のそっと起き上がって、浴衣片手にベッドを降りる。
今朝起きて、やっと二本の足で立ってみたのだけど……果てしなく、だるい。腰から地面にめり込んでいくんじゃないかというくらい、だるい。
「う、う……」
それこそ、さっきの甘い雰囲気も吹き飛びそうなくらい、だるい。
思わずその場にへたり込みそうになったけれど、ベッドに片手をついてなんとか、保つ。
久々に、こんなにだるい朝を迎えた。
昨日はわたしも随分、その気になってしまっていたのが、この腰痛の原因だろう。
半分は自分の責任なんだけど、雀ちゃんはケロッとした顔で去っていった。あの後ろ姿に腰痛なんて微塵も感じられない。それはそうだ。彼女は腰痛になるような体勢とか色々とかしていないんだもの。
あっても、腕の筋肉痛とかだと思う。
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腰をさすっていると、足音が近づいてきた。
だるさを一瞬だけ意図的に無視して、さっと浴衣を羽織るとサンドウィッチとスープの乗ったトレーを片手に軽々と持った彼女が部屋に入ってきた。
「……なんだ」
ちらっとこっちを見た瞬間の、あの顔。
口でも言った通りの「なーんだ、残念」と言ったようなあの表情。あれは絶対、わたしが裸で居るのを想像というか期待していたのだ。
実際は、浴衣を羽織っていて、見える肌など足首から下くらいしかなかったんだけど。
「えっち!」
叫んでみると、雀ちゃんは開き直ったように、ははっと笑って、小さな和室へと足を運ぶ。
その足取りには筋肉痛なんてものも見えない。
――なんでわたしばっかり。
むぅ、とひとりで頬を膨らませて、彼女に背を向けて、浴衣を整え帯を締めた。
その間に雀ちゃんはもう一往復して、カツカレーの乗ったトレーを運んできてくれた。
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なんとか自力で和室まで進んでこれたわたしを振り返った雀ちゃんに、「ありがとう、ごめんね、一人でさせて」と言うと、彼女は首を横にふって笑顔をみせてくれた。
その笑顔にはまったく、不調なんて見受けられなくて、ますます理不尽だわと思う。
「ねぇ。筋肉痛とかないの? 腕」
「は? きんに……あぁ、ないですね」
「……ズルイ」
「愛羽さんは全身が大変ですか?」
「おかげさまで。本当に大変」
嫌味のつもりで言ったんだけど、雀ちゃんは障子の前に立つわたしにてててと歩み寄ってくると、背中に腕を回して、抱き締めた。
突然のハグに、視界いっぱいになった浴衣の柄を見つめたまま、瞬く。固まったわたしの背中にまわっている手は、ゆっくりと背中と腰を往復するように撫でて、もう片手は後頭部にそっと添えられた。
「すみません。私が愛羽さんのこと大好きなせいで」
とても落ち着いた大人びた声で、そんなことを言う雀ちゃんに、きゅんとする。
大好きなせいで”全身が大変”な状態にしてしまって申し訳ない、だなんて、……そんな台詞を囁かれたら、女子なら誰でも、許してしまうと思う。
「ご飯食べたら、ゆっくりお風呂に入りましょう? 体温めたら、少しは楽になるかもしれないですし、そのあと、腰とかマッサージしますから」
――はあぁ……もう、……もう。……もう…っ。
「すき」
「え?」
「雀ちゃんが好き」
「え、あ、はい。私も愛羽さんが好きですよ」
にっこり笑う彼女の顔を見上げて、また、胸が鷲掴みにされる。
優しさに、甘さに、蕩けてしまいそうだ。
どうしてそんなに優しいの、と言えばきっと彼女は、「愛羽さんの事が好きだからですよ」と言うだろう。
けど彼女の優しい部分は、「好きだから」という単純な理由で片付けられるほど、小さいものではない。
生来の優しさが、二十年生きてきてもスレることなく、健全に育っているのはきっと、ひとえに、彼女の性格の良さと、彼女の周りの人たちに恵まれたからだろう。
わたしはその全てに、ありがとうと言いたくなる熱いものを胸に、軽く背伸びをして、愛しいその人に、キスをした。
この気持ちが少しでも、伝わればいいのにと切に願いながら。
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