隣恋Ⅲ~のたり~ 7話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 7 ~

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「ほんとに分かってくれてます……?」

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「分かってるよ、雀ちゃんが可愛いってことはバッチリ」

 可愛いどころじゃない。可愛い過ぎるくらいだ。

「なんか違う気がするんですけど……」

 言い募ろうとした彼女の両頬をむに、と片手で挟んで唇を突き出させる。
 それに軽く唇を触れさせてから、至近距離で「またお腹鳴る前にご飯頼んだ方がいいと思うけど?」と笑ってみせると、彼女は「むぅ」と不満そうに唸ったものの、やっとこくんと頷いて、機嫌を直してくれた。

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 それから朝ごはんを二人で選んだのだけど、雀ちゃんは寝起きからカツカレー。
 わたしはサンドウィッチとスープのセット。

「……ねぇ、雀ちゃんいつから起きてたの……?」
「え? 愛羽さんが起きるちょっと前ですけど?」
「起き抜けに、よくそんなメニュー頼めるね……」

 フロントに電話するために手を伸ばして、サイドテーブルから受話器をとりあげる。
 コール音3度目で応答があって、カツカレーとサンドウィッチとスープのセットを頼む最中に、雀ちゃんと視線があった。
 昨日もそうだったけれど、わたしが電話している姿が新鮮なのか、雀ちゃんはわたしが受話器を持つと凄く見てくる。

 特に何か用事がある訳でもないんだろうけれど、追加注文でも思いついたのかしら? と彼女に向けて首を傾げる。ホテルの人の丁寧な応対に耳を傾けて、復唱されたオーダーに頷く。と、その瞬間、ぐっと顔を寄せてくる雀ちゃんに目を見開いた。
 ”ちょっと!? 雀ちゃん!”と咄嗟に口にしなかった自分を褒めてあげたいくらいに、彼女は本気で、わたしにキスしようとしてくる。

「はい、それでお願いします」

 ”もう!”と怒った顔を作ってみせるけれど、怯まない雀ちゃん。
 多分、受話器を持っている間は怒られないと高を括っているに違いない。

 まぁ確かに、怒りはしないけれど抵抗はする。彼女の口に、人差し指から薬指までの三本を押し当てて、腕を突っ張る。それでも更に、こちらへ顔を寄せてこようとする雀ちゃん。
 結構な力で押し返しているから、痛いはずなのに止めない彼女の根性というか性欲というか、それは凄いなと思う。

 電話の向こうから「承りました」との声が聞こえて、急いで受話器を本体に戻したわたしは、彼女の口から手を外して、「こら」と睨んだ。

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「だって電話してる愛羽さん可愛いんですもん」
「可愛くないし、電話中なんだから悪戯しないの」

 ホント、なんなのか。電話中に悪戯するのって、ラブホテルに入ったら皆やりたくなることなの?
 過去同じ事をされた経験のあるわたしにとっては、そんなのいい迷惑なのだけど、雀ちゃんはというと、ニコニコしながら「可愛いですから」とわたしに抱き着いてきた。

 ……そうやって甘えるみたいに抱き着かれると、可愛くて許してしまいそうになるけれど。

 彼女の額に指を押し当てて、ピンと弾いた。

「あ゛ぐっ」
「おしおき」

 駄目なものは、駄目なのだ。

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 わたしが弾いた額を押さえて、うぐうぐと唸りながら雀ちゃんが隣に蹲る。まるで猫のごめん寝みたいな恰好が可愛いくて、黒いファイルをサイドテーブルに直して、立てた両膝を抱えたまま、見下ろす。

「な……なんで腕の力はそんなないくせに、デコピンは死ぬほど痛いんですか……」

 情けない声で尋ねる彼女が、のそっと顔を持ち上げると、その額が赤い。

「パソコンで鍛えてるからじゃない?」

 毎日指を動かすといったら、そのくらいしか思いつかない。
 キーボードを打つ仕草をしてみせると、なんとも言えない顔をされた。

 仕事をしている愛羽さんは恰好良いし好きだと言われたことがある。きっとその言葉には嘘がなくて、好きは好きなんだろうけれど、毎日のパソコンでそこまで指が鍛えられてしまうのは仕事のしすぎでは……? みたいな複雑な表情。

 元々の心配性な部分もあって、わたしの仕事に関する心配事は絶えない日々を送っているだろう雀ちゃんには、悪いなと思う。だけど、元々仕事が好きだしまだランクアップを望んでいるわたしとしては、なかなか仕事の手を抜けというのは難しい。

 彼女と付き合うようになって、あまりにも無茶な生活はしなくなってきているものの、雀ちゃんに言わせてみせばまだ「仕事しすぎ」だそうで、よく怒られる。

 叱られるうちが華、と言われるように、呆れられる前に程々に抑えなくては、と思うものの、なかなか……難しいものなのだ。

 そのことを、まーが分かっているのかは謎だけど、こうして仕事の無い非現実世界のような場所に隔離された方が、わたしは仕事のスイッチを完全にオフにできるから、今回のラブホテルデートは本当に、ありがたいと思っている。

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