隣恋Ⅲ~のたり~ 1話


※ 隣恋Ⅲ~のたり~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ のたり 1 ~

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 ゆらり、ゆらり、と漂う舟の上。
 わたしは、海風に吹かれていた。

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 ――あぁ……これ、夢、だわ……。

 目の前には大海原。
 ぽつねんと浮いた舟の上に一人。
 空は快晴。二羽のカモメが遥か遠くに飛んでいる。

 そんな状況になるまでの過程が不明だし、わたしは確か昨日、雀ちゃんに抱かれたはず。
 そう、まーから貰ったラブホテル無料宿泊券でやってきたホテルで。

 ぶわっと甦るアレやコレの記憶。
 激しかった、としか言い表せない昨日の行為は、わたしの身体に甘く甘く、記憶が刻まれている。

 どれもこれも忘れ難い。だけどその中でも一番を決めるとしたら、やっぱりアレかしら。

 二度、絶頂を迎えたあとの、身体が溶けてしまいそうなあの感覚。
 仰向けにベッドに寝転がっていたあのとき、雀ちゃんの優しい愛撫に、身体も、心も蕩けてしまいそうだった。

 特に身体は、まるでベッドにずぶずぶと沈んでしまいそうなくらいの感覚で、わたしは助けを求めるように、雀ちゃんの名前を呼んだ。
 その声も震えて震えて、自分ではコントロールが出来ないくらいで、あのまま優しい愛撫をされ続けたら、きっと、甘すぎる快感におかしくなっていたと思う。

 何をどうされたのかも記憶にないけれど、本当に、快感の糖尿病になるところだった。

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 思い出しただけでも身体の奥が疼いてきそうで、わたしは思わず、夢だと理解していながら、舟の縁に引っ掛けられていたオールの柄を胸にかき抱いた。

 そうすると、ふわっと髪が、海風に靡いて、首をくすぐる。
 さわさわと淡い感触に首を竦めると、舟の上にはわたし一人しか居ないはずなのに、誰かが傍で笑った気がした。

 ――え、なに、誰もいないのに、誰かが笑ったってどういうこと……?

 急に沸き上がった不安に同調するみたいに、大海原の水面が揺れ始めた。
 ゆーらゆーらと大きくゆっくり波が立ち始め、空はさっきまであんなに晴れていたのに、暗雲がたちこめて、雲の中では雷が光ってゴロゴロと音を立てている。

 わたしが乗っていた小舟は昔話に出てくるような木製の舟。
 嵐なんか起きたら、確実に転覆してしまう。

 抱き締めていたオールをより強く抱き締めた瞬間、まさかの、海が、二つに割れた。

 ――モーゼなんてどこに居るのよっ!?

 叫んだ瞬間、わたしの乗る舟は割れた海の底。着く先も見えない程真っ暗な海底へと、真っ逆さまに吸い込まれていった。

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 ――落ちるッ!

「ッ!?」

 ビクッと腰から体全体を跳ねさせて、わたしはカッと目を見開いた。
 ドクドクドクドクと心臓が速く打っていて、なんだか腰が抜けたような重だるい感覚がある。

「び……っくりした…………」
「だ、大丈夫ですか?」
「ふぇ……?」

 呟いたわたしの頭のすぐ横で、心配そうな低めの声がした。
 顔を上げると、そこには、人影。
 真っ暗い部屋に居るようで、その人物の顔こそ見えないけれど、聞こえたその声はわたしの恋人の声だった。

「雀ちゃん……?」
「はい。電気、ちょっとだけ、つけますね?」

 名前を呼べば、なんだか嬉しそうに返事をした彼女は、布団の中から手を伸ばして、部屋の照明を少しだけ、明るくしてくれた。

 包まるようにしてすっぽり被っていた布団から顔をのぞかせたわたしは、頭上の照明に目を細める。
 ほんの僅かな光でも、目に沁みるのは、この部屋が窓もなく闇という闇をかき集めたみたいに真っ暗な部屋だったからかもしれない。

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 そんな真っ暗だった部屋は随分と見覚えのない天井。
 それに、寝ているこのベッドも随分ふかふかで、わたしの部屋の物でも雀ちゃんの部屋の物でもない。

「あ……ラブホか」

 ぽろん、と零れた言葉にようやく、自分自身の置かれていた立場と状況を理解した。

「愛羽さん、ねぼけてました?」

 少し笑みを含んだ声がやはり頭上から降ってきて、わたしは見覚えのない天井から、隣に寝転がる人物へと視線を移した。

「ものすごーく、ねぼけてた」

 素直に認めると、その人は、小さく笑って、照明のスイッチを操作した手で、わたしの頭をふわりと撫でてくれた。
 その感触は、先程、海風だと感じていたそれとよく似ている。

 どうやら、わたしは夢現という所を揺蕩っていたようで、眠るわたしの頭を雀ちゃんが撫でてくれた現実を、海風に吹かれている夢として、みていたらしい。

「おはよ、雀ちゃん」
「おはようございます、愛羽さん」

 にっこりと微笑んでくれる恋人に、わたしは言いようのない幸せを感じた。

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