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頭の中はぐちゃぐちゃなままだった。
だって整える間もなく、あの女があたしと先輩の間へ割り込んできたから。
なんにも知らないくせに……!
出しゃばってくるなと言ってやった。
あんたは確かに、今日の会話だけであたしの色々を読み取ったすげぇ奴だ。
けど、高校の頃の先輩も、あたしも、知らないくせに偉そうに踏み込んでくるんじゃねぇ。
そんなふうに牙を剥くあたしを、愛羽さんは燃えるような眼光で串刺しにして、とんでもない事実を教えてきやがった。
「全部聞いたわ。あなたが転校してくる前の事も、それからも。誰と関わっていたのか、何があったのか、何を思っていたのか、どう行動していたのか」
そん、な……、と言ったつもりだったけど、死にかけの鶏みたいな声がうっすら零れただけだった。
「全てを承知の上で、言わせてもらうけれどね。絢子ちゃん、あなた、雀の傍に居て。あれだけ傍に居て。何故この現在しか作り出せていないの?」
……はぁ……!?
あたしは間違いなく、今日の中で一番の睨みを愛羽さんに向けた。
なんなんだお前。
知ったような口ききやがって。
なんで……なんでお前なんかにそんな事言われなくちゃいけないんだ……!!
何故この現在しか作り出せていないのか……!?
ンなもん……っ……あたしが知りてぇし! あたしが一番思ってんだよ!!!!
「学年は違えど同じ部内で」
うるせぇ。
「最もチーム内で信用されている立場で」
うるせぇよ……言うな!
「静観を多く選んで、雀を救う行動を採らなかったあなたが、見返りを求めるの?」
うるせぇ黙れよ頼むから!!!
「学校の中で、雀を救える唯一の――」
「――ストップ」
あたしを責め続ける声を途中で止めたのは、他でもない、先輩だった。
愛羽さんの腕を掴み、少し引いている。
険しい表情はそのままで、愛羽さんが深呼吸して落ち着きを取り戻すまでずっとその手は彼女を掴まえていた。
だけど彼女が穏やかさを取り戻してきたら、先輩はにこやかに笑った。
恋人の愛羽さんですら、その笑顔の理由は理解できなかったらしくて、めちゃくちゃ不審そうに見上げられてたけど。
そんな彼女に対して謝ったり、礼を言ったりした先輩は苦笑を浮かべて愛羽さんを諫めた。
高校の時はああするしかなかった。自分も、あたしも。
それはきっと、愛羽さん、あなたもそうだ、と申し訳なさそうに述べたのだ。
あれはあれでよかった。
だから今があるんだ。
言いながら先輩は、烈火のごとく怒っていた愛羽さんを宥める。
愛羽さんは間違った事を言ってなくて、正しくて、怖くて、言い返せもしなかったあたしと違って、先輩は年上の恋人の間違いを丁寧に指摘して納得させた。
本当は違うのかもしれないけど。
だけど先輩がそうやって愛羽さんに立ち向かっている姿は……。背中は、まるであたしを庇うかのようで、泣きそうになる。
だって。
あんたはもう、あたしを庇う対象と見なくなったと思ってたのに。
恋人である愛羽さんを、守る人と決めていると思ったのに。
先輩の意図するところではなく、あたしは守られたのかもしれないけど。
勝手に、守ってもらったと思ってるだけかもしれないけど。
めちゃくちゃ怒って、めちゃくちゃ睨んできて、めちゃくちゃ怖くて、めちゃくちゃ責めてきた愛羽さんから、背に庇って守ってもらったみたいな気がして…………。
久々に。
大事な後輩のあたしを抱かないと言ってくれた日以来に、カッコイイ背中を見れた気がして……。
マジで、泣きそうになった。
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