第4話 武藤と春休み

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 終業式の日は流石に色んな荷物を持ち帰らなきゃいけないから行ったけど、あたしは二日間のズル休みと終業式出席を経て、春休みを迎えた。

 部長としての仕事にこの休み中で慣れて、新学期からバスケ部を引っ張っていく。
 なんて立派な考えなどあたしにはなくて、顧問にどうすればいいか尋ねた。返ってきたのは、「部長になったからって気負う必要も怖がる必要もない。誰でも失敗しながら成長していくんだよ。まずは思うようにやってみな」という頭の悪い返事だった。
 んっとにこの顧問は昔からずっと馬鹿だなと思う。
 そういう精神論的な話で返されても何の指標もないんだから困るに決まってんだろ。具体的なメニューの例とか出せや。と思ったものの、好き勝手やっていいらしいので、あたしは機嫌を直した。

 とりあえず攻撃力も守備力も足りないうちのバスケ部には、何をするにも必要なのは体力づくりだと判断し、そういう練習メニューを組んだ。
 走り込んだ後に筋トレ。その後にもまた走り込み。もちろんそれをしながらハンドリングも同時進行。

 流石に悲鳴をあげた同級生からは、無茶な練習メニューだ、改善を。と求められたが、顧問から部長の好きなようにしていいと指示を受けていると返せば、黙って練習に戻っていった。そのくらいなら、文句なんか持ってくるな自分の中で噛み潰せ馬鹿が。
 不平不満を蓄積させていく同級生や後輩を睨み返すあたしの目付きは、随分悪いものだったと思う。

 だってなにせ、むかつくのだ。
 何にムカついてるかって、全部。なにもかも。全部ぜんぶ全部だ。

 春休み直前、あたしにとんでもない発言をしたパシリ野郎にもムカついた。
 あたしが先輩を好き? 恋愛的に? 寝言は寝て言えよ。
 パシリ野郎の意見を支持する2人にもムカついた。
 いつも先輩にくっついてた?
 ここに来たらずっと先輩の話してた?
 自分がストバスに連れてきたんだから慣れるまで側にいるだろ。あそこで歳が一番近ぇの先輩だから気が楽なんだよ。
 先輩が来なくなってもお前らが安藤は? 安藤は? って聞くから答えてただけだろ。先輩の近況報告してただけだろ。
 あの3人のどんな言葉にも言い返せた。
 だけど、だからこそ、忘れようと思ってた先輩の事ばっか頭に浮かんできて、余計うざかった。

 なんでいきなり消えたりするんだ。
 今まで散々2人で得点あげてきたのに。
 練習してきたのに。
 ストバスにも通ったのに。
 部活終わりに一緒に帰ったのに。
 試合だって先輩の次に活躍できたのあたしなのに。
 先輩のサポートしてきたのはあたしなのに。
 誰より近くに居たのに。
 あんたもこっちにボールをパスしてきてたはずなのに。

 なのに。

 なんでいきなり消えたりするんだ。
 メールも電話も通じない。
 家の場所だって分からない。
 消えた先輩が高校にOGとしてひょっこり現れるなんて事有り得ない。

 これじゃあ関係は断たれた。
 もう会える見込みはない。

 だからなのか。
 そのくせと言っていいのか。

 ムカツクと思い出した先輩との記憶は多くて…………そのどれもが楽しかった。
 なんだかんだ雑に、手荒く、あたしを扱って目茶苦茶馬鹿にしながらでも、先輩はあたしには笑ってた。
 バスケしてる時はめちゃくちゃ鋭くなって、それこそ、狼みたいに鋭い眼を、ゴールが入った一瞬だけ緩めてあたしを見てくれた。あれだけは、何回体験しても、何回思い出しても、ぞくとして、他の人間には味わえない瞬間だと思うし、優越感を感じていた。
 バスケ以外では結構馬鹿な所があったりするのも、冗談を言い合ってたのもおもしろかった。

 馬鹿が多い中で、おもしれーなと思えた人だった。
 見せられる背中が、カッコイイなと思う人だった。

 そうやって思い返せば思い返すほど、あたしはこの学校に転校してからずっと、先輩を目で追っていたような気がしてならなかった。

 だけどそれを、あたしは認めたくなかった。
 先輩に恋してた? 寝言は寝て言え。って感じだった。



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