第2話 武藤と先輩の合格発表

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 なぐさめます?
 祝います?
 先輩のオゴリで

 お前は先輩に対する態度がホントなってないよな。
 そんな返信が来るだろうと予想したあたしは、内容3行メールの送信完了を見届けてケータイをベッドに投げた。

 今日は3月23日。
 昨日の22日に、大学試験の合否が発表された。……んだと思う。
 なんか、よく分からんが大学に行くには、センター試験とか前期後期試験とか1期2期3期試験とか、いろいろあるらしい。マジでよく分からんけど。

 でも、一番遅い日取りで実施された試験の結果も、22日に出るらしく、その日以降なら高校を卒業していった先輩にも連絡とっていいんじゃないかと先生から聞いた。
 だから、今日。23日。朝っぱらから送るのは待ちに待った感じがするからアレかなと思って、夜、風呂入る前にこうして送ってるワケだ。

 あたしは着替えを持って、早々に風呂へ向かう。

 なんとなくソワソワした気分なのは、かれこれ3週間ぶりだからだ。
 いや、でも、卒業式に先輩と会って写真撮影をした訳でもないから、正確に言えば、先輩が部を正式に退部する時からだから……かれこれ数ヶ月ぶりなんだ。
 久しぶりに先輩と取る連絡に緊張する体をシャワーで宥めて、風呂上りには冷蔵庫から取り出した水を一気飲みする。
 居間にいた親にはいつから春休みかと訊かれた。
 26が終業式と答えれば、じゃあ27からは家事を任せられると喜ばれた。

 誰もやるなんて言ってねーっての。
 心の中で言い返して、きっとその心の声に従うことはなく、従順に家事をしてしまうんだろうなと容易に想像できる自分にうんざりする。

 が、これは親も自分も今に始まったことではない。長年こうだったのだから、きっとこれからも変わらずにこうなんだと思う。
 自分は義務教育以上の学習を許されてるんだから感謝すべきで、仕事へ行って金を稼いで養ってくれるし小遣いもくれる親の家事負担を減らすのは当たり前。教え込まれた我が家の”家訓”とも言える内容を脳に広げて、反抗心を鎮めて自室へ引き上げた。

 ドアを後ろ手に閉めて、寄りかかり、後頭部をゴンとぶつけて今し方の記憶を消し飛ばす。ほんとに消えればいいのにナーと呟いて、あたしはベッドに放置したケータイに目を向けた。

 来てるかな。

 先輩とケータイで連絡を頻繁に取ることはなかったけれど、何かの用事で取れば結構すぐに返事をしてくる人だった。
 風呂に行って帰ってくるまで大体30分。
 これだけあれば、返事は来てるだろ。

 ドアから離れてベッドに座り、右手で取ったケータイに親指を滑らせる。
 すぐに明るくなった画面には、メール1件の通知。

 ほらやっぱりな。あの人のことだから来てると思ったよ。
 思わずにやつく口元を感じ、ついついこの後の予想を立ててしまう。

 先輩の事だからきっと大学は合格してるだろう。本命はもしかすると、失敗してるかもしれないが、滑り止めでどっかの大学には合格してる。
 だから祝えって言ってくるだろうし、祝うつもりならお前の奢りだとも言ってくるだろう。でも多分、懐に余裕があれば驕ってくれる。あたしが悪ぃ事したときには容赦なく奢らせてくるくせに、なんもなくて余裕があれば平気で奢ってくれる人だから。
 さては家が裕福で月に5万小遣いもらってんスかと訊いた事があるけれど、先輩が教えてくれた月額は予想以上に少なくて、その中でやりくりしてるのはマジで偉いと思ったもんだった。

 まぁ小遣いの話はさておいて。

 とりあえず会う日を決めないとな。あたしももうすぐ春休みに入るし、部活はあるけど毎日一日中ってワケでもない。卒業していった高3の先輩の春休みは多分暇で暇で仕方ないだろうし、こっちに合わせてもらって、あぁあと、あたしが部長就任したって事も報告してやろう。
 きっとビックリして「お前がか!?」とか失礼な事を言ってくるんだあの人は。

 ふっと鼻から漏れた笑う息遣い。
 オイオイ。あたしはメールも開かずなにやってんだよきっしょいな。

 いつの間にかブラックアウトしたケータイを握り直して、メールを開く。
 一番最初に目に入ったのは英語だった。

Mail System Error – Returned Mail
次のあて先へのメッセージはエラーのため送信できませんでした。
送信先メールアドレスが見つからないか、
送信先メールサーバの事由により送信できませんでした。
メールアドレスをご確認の上、再送信してください。

 何回読み直しても、送ったのは先輩の宛先で間違いなかったし、そこから返ってきたのはエラーメールだった。


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