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ボロ布を纏った亜人が、それぞれの檻から歩いて出てくる。
「お前たち、よくよく働くようにな」
彼は持ち上げた燭台の土台部分で亜人の頭をゴツンと打ったけれど、亜人は揺らめいただけで反抗らしいものは見せなかった。
「ちょっと。やめてよ、今はもうわたしの子なんだからキズモノにしないでちょうだい」
遥さんが口を挟めば彼はひっひと笑っただけで、謝りもせず歩き出す。
我々を店先まで送り届けるため、来た道を先導してくれるようだ。
彼のすぐ後ろをわたしは歩きながら、ひとつだけ、問う。
「上級モンスターは金貨25枚と聞いていたのだけれど、どうしてこの子達は15枚?」
「ひっひ。そやつらは犬畜生と人間が交わった成れの果て。純然たる上級モンスターとはまるで違いますからねぇ」
「亜人は突然変異で生まれたと史では習ったけれど?」
「そんなもの親切な誰かのでっち上げですよ。こやつらに人権を、差別をするななどと馬鹿を言う親切者のねぇ」
重たい音を立てる鉄の扉が彼の手によって開けられ始めた。
「親切者のせいで王都ではこの商売はあがったりですよ。ようやくこの片田舎を見つけて商い始めたんですから。まったく迷惑な話です」
ギィイイイイイと扉から悲鳴があがる。
その悲鳴はここに居る檻の住人全ての悲鳴かと錯覚しそうだ。
「まぁ政府なぞの鈍足はこの田舎にはまだまだ及びません。ここが危なくなるまでに新しい何かを見つけてやりますよ。その時はまた、どうぞご贔屓に」
商品陳列のされていない店内へ戻り、跳ね上げ式のカウンターを通り、店から出た。
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで大きく吐けば、そんなわたしを置いてズンズンと歩き奴隷店から遠ざかるパーティリーダーが、食いしばった歯の隙間から憤慨を吐き捨てる。
「足元見過ぎなのよォ……!!」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうなくらいだったが、怒りのままに大声を上げないのは流石だ。
まぁしかし、金貨がまるで銅貨のように飛んでいったのはなかなか痛い。
最近の手配モンスター退治やダンジョン攻略で貯めていた資金があっという間に半分をきった。
これは一度宿へ戻って、今後の資金繰りに関しても相談すべきだろう。
それに……。
明るい場所で改めて見てみると、酷いものだ。
亜人ふたりとも、ただの布切れを体に巻いている。強風が吹き付ければ捲れ上がり大事なところも隠せないほど布は小さいし、破れたり、ほつれたりしている。
そしてその布だって清潔とは決して言い難い。
泥か血か汚物か。何かで汚れたドブ色だ。早々に服を買い与えなければ、まともな宿では入店拒否を食らう。
「はるかさーん?」
ズンズンどんどん進んでいるリーダーはどこまで行くつもりか。
亜人ふたりは大人しくついてきてくれているが、この状態のままで街の中枢部へは向かえない。
「おっきめのマント手に入れてくるからそこらで待ってて!」
随分離れてしまった距離から言い渡された指示。
了解を伝えて立ち止まれば、半立ち耳の亜人は立ち止まったけれど、黒くて長い髪の亜人はそのまま遥さんを追おうとした。
なるほど。
この腕輪の契約通りに、わたし達それぞれを主として付き従い、二人は別行動を取るもののようだ。が、今は呼び止めておく。
あなた達の着るものをとりあえず買いに行ってくれているから、ここで一緒に待っていてくれと言い聞かせてみると、長い黒髪の亜人はコクと頷き、わたしの傍で控えた。
「……」
風に漂う酷い臭い。
二人の体から立ち昇っているのは明白だ。宿に帰ったら認識阻害の魔法でとりあえずバレないよう秘密裏に部屋へ通して早々に風呂へ入れなければ。
身体中泥かなにかで汚れているし、赤黒い爛れも見て取れる。
片腕ひとつだけでも、切り傷、擦り傷、毒傷あり。
こんな状態で放置され続けたら、普通の人間ならすぐにあの世行きだ。
亜人の体力があるから生きている状態に違いない。
――あの店主め……。
不気味な笑い声がまだ耳に残っていて不快だわ。
わたしは耳を擦るように撫でて、湧き上がった不快感を払い除けた。
「おまたせ。買ってきたわ」
「おかえりなさい。ありがとうございます」
マントを亜人ふたりへ与えてみたものの、やはり酷い臭いは変わらない。
わたしと遥さんは顔を見合わせた。
「とりあえず」
「宿に戻りましょうか」
頷き合うと、わたし達は街の宿泊街へと連れ立って歩き始めたのだった。
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