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5月ももう末。
6月に近付いた気温は高く、夜寝付くのに時間が掛かる日々が続いていた。
クーラー付けましょうか? うーんそれほどではないよね。
なんていう会話を交わしつつ、布団を夏用に替えるか、夜着をもう少し薄手の物にするか、それともいっそ収納スペースに仕舞い込んでいる扇風機を出せば変わるんだろうけれど、日々の忙しさに負けて、その辺りのことが出来ていない私たちは、掛け布団をずり上げて足先を布団の外へ出したり、極限に眠気が近付いてくるまでは布団をかけずにいて、寝る寸前に掛け布団の中へもぐりこんだりと、日々どうにかして寝付こうと努力していた。
今日も今日とてそんなふうに、仰向けになって布団を跳ね除けたまま目を閉じていると、突然唇に何かが触れた。
「ぅ」
びっくりして声をあげると、愛羽さんは唇同士をくっつけたまま、にんまりと笑う。
人がうとうとしてる横で、いつの間に覆い被さってきていたのか。
驚いた。
「んふふふ、ごめん。びっくりした?」
私にキスをして気が済んだのか、ポスンと枕に頭を戻す愛羽さん。
急にしてくるなんて、可愛いなぁと私が横向きに寝返りを打つと、部屋がふっと真っ暗になった。
あれ? なにも見えなくなった。
ん? いつの間に明かりがついていたんだ?
でも自動で消えたってことはサイドボードにあるケータイが光源だったのか。
「時間みたら、日付変わってたからキスしたの」
「……私別に誕生日とかじゃないですよ……?」
「知ってるわよ」
クスクスと笑みが聞こえてくるけれど、夜目の利かない私には、愛羽さんの輪郭くらいしか見えない。
きっと可愛い顔で笑ってるんだろうなぁ見たいなぁと思っていると、ふわりと空気が動いた。
――近い。
思った瞬間には唇がまた重なっていた。
2、3度軽いリップ音を立てて私を啄んだ愛羽さんは、至近距離で囁く。
「今日はキスの日なんだって」
「きすの、日?」
初めて聞いたけど、そんな日、あったんだ。
「じゃあいっぱいしないと」
そんな、キスを正当化できる日があるだなんて、あやかって沢山しておかないと損じゃないか。
私が愛羽さんの腰へ手をまわすと、彼女は楽しそうに笑い声を立てつつ、胸に手をあてて押し返してきた。
「ダメよ。せっかく体冷えてきて眠れそうになってきたのに、暑くなっちゃうもん」
「でも、キスの日なんですから」
え、ちょっ、と焦った声音を吐き出す口を、私はキスで塞いで組み敷いた。
なにせ今日は、キスの日だから。
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