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夕食後、二人並んでコーヒーを飲みながらテレビを見ていると、ペット特集という番組を愛羽さんが見つけた。
これ見てもいい? と毎回必ず聞いてくれる愛羽さんは優しいなぁと思う。
私は特に見たい番組はないし頷くとお礼を告げ、リモコンをテーブルに置いて、コーヒーカップを持ち上げる彼女。
ありふれている日常にも、こうして礼儀というか、「ありがとう」の一言をくれる愛羽さんの気遣いが嬉しい。
高まった好きの気持ちにキスしたいなぁなんて思いつつも、子猫の映像に可愛い可愛いと声をあげる彼女も堪能したい。
キスはいつでも出来るが、後者は今でしか、堪能できない。
だから私は我慢して、少し気持ちを落ち着ける為にも、愛羽さんからテレビへと視線を移した。
「愛羽さんは猫派ですか? それとも犬派?」
「んーーー。難しいなぁどっちも可愛いけど……」
熱心に見つめていたテレビから、ひょいとこちらへ目を戻す愛羽さん。
「犬派かな」
若干、笑っているその口元が、何を意味しているのか。
「……なんでこっち向いて言うんですか」
「えええ? お話をするときには人の目を見て喋るのが基本でしょ?」
だったらなんで笑ってるんだ。
普通にして「犬派」と言ってくれれば私も妙な勘繰りはしないんだけどな。
ていうか、勘繰りって言うより、確信なんだよ。
だって愛羽さんがニヤニヤしながら頭撫でてくるんだもん。
暗に、「雀ちゃんが犬っぽいから」と示しているその仕草だが、撫でられて心地良いと思って大人しくしてしまうからいけないんだろうか。
「でもわたしが構って欲しい派だから、猫ちゃんだと、気分で構ってくれないじゃない? だからやっぱり雀ちゃん関係なくても犬派かな」
ウン、完全に言ったな。犬派と言わしめた原因が私だって。
……ま、もう、いいけどさ。
「愛羽さんは構って欲しい派なんですか?」
会話の流れ的になんとなくそう聞いたんだけど、何故か、目を丸くした彼女に見つめられた。
「まさかとは思うけど……知らなかった、の?」
「……なんとなく、しか」
なんでそんなビックリされるんだ。だって、そんな話、今までしたっけ? してないよな?
それに愛羽さん、家では暇があれば仕事してるし、私が勉強とかしてても「構って構って」と纏わりついて来たことなんてない。
だから改めて「自分は構って欲しい派」と宣言されると、へぇそうなんだ、と感嘆の声を上げたくなる。
ぎこちなく頷く私に、ちょっぴり呆れたような溜め息を吐いた愛羽さんは、自分の顔を指差した。
「構われたいし、構いたいタイプですよ」
あ。ちょっと照れてる? 敬語が混じった。
変化した口調からなんとなく察した私は、内心ニヤリとして、顔色は変えず、さらっと告げた。
「相性ばっちりですね、私達」
それまで饒舌だった愛羽さんが、ん゛、と口を真一文字に引き結んで唸ったので、わたしはその顔をわざと覗き込む。
「なんか顔赤くないですか?」
「あかくない」
言葉の通り、彼女の顔はまだ赤くはない。
でもちょっと照れてるのは、敬語の段階から分かってるから、わざと煽る。
「いやでも赤いですし」
「るさい、こっち見ないで」
フイと顔を逸らしつつテレビを指差す愛羽さん。
自分ではなくテレビを見てろと言いたいんだろうけれど、わたしは彼女の肩に手をかけてじりりと迫った。
「構われたいタイプ、なんですもんね?」
頬に手を添えてこちらを向かせた顔は、さっきと違って、真っ赤だった。
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