隣恋Ⅲ~ブラジャーの日 2月12日~ 1話 完


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~ ブラジャーの日 2月12日(2019年加筆修正版) ~

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「愛羽、今日暇?」
「ん?」

 会社の昼休憩。
 まーと次の会議の打ち合わせをしながらランチをしていると、会議の話の途中にいきなり、そんな事を言われた。

 わたしは少し首を傾けて右上に視線を投げながら自分のスケジュールと残りの仕事量を思い浮かべ、会議の内容と結果次第ではあるけれど定時にはあがれるかと算出する。

「時間はあるけれど?」
「じゃあ、買い物付き合って」

 まーにそんな誘いをされるのはよくある事で、軽い気持ちで是と返事をした。

 それが、後悔に繋がるとも知らず。

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 それは狭い空間で。

 少し薄暗い照明で。

「ち、ちょっと……!?」

 焦るわたしの声を楽しむように、じわりじわり、近付いてくる相手。

 わたしの上着はとうに脱がされ、シャツのボタンも第三ボタンまで外されている。
 女物のシャツは元々軽く開いたデザインが多く、分かりやすく例えるならば男物のシャツの第一ボタンの部分が、無い。つまり、男物のシャツのボタンを上から4つ分外された状態。

「待ちなさいってば……!」
「やだ」

 即答で、却下される。

「ちょ、お願いだからっ」

 試着室でこんなゴソゴソしてたらホント怪しいからっ……!

 そう、わたしは今、まーと1つの試着室に籠っているのだ。

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 それというのも、まーが買いたい物と言っていたのはブラジャーだったらしい。
 しかしまぁ買う物に関して問題は全くない。

 行きつけのショップに一緒に行って、アレが可愛いコレが綺麗だ、なんて若い女子みたいに二人で楽しんでいた。
 それも問題ない。

 そのうち、彼女が買い物に付き合ってくれたお礼だから一着買ってあげるなんて太っ腹な事を言い出した。
 それも全く問題ない。いやむしろ、ありがたい申し出だ。

 お言葉に甘えて、自分好みのものを選んで一応試着、と思ったら……なぜかまーが試着室についてきた。
 これが問題なのだ。

 なにせ、昨日雀ちゃんと濃厚な夜を過ごしたばかりで、わたしの体にはあちこち、赤い痕が付けられている。
 さすがにエチケットというか大人な気遣いをしてくれる雀ちゃんで、服を着た状態で見えるような所にはつけないけれど、思わぬ所につけていたりするから驚く。

 今日はトイレで、内太ももが数か所赤くなっているのを発見して、驚いた。
 いつの間につけられたのか、まったく覚えていない。

 そんな体を、さすがに仲の良いまーとはいえど、見せる訳にはいかない。

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「そーこまで嫌がるってことはぁ?」

 にやにや、というかニタニタしながら、まーはわたしの体を上から下までねっとり視線で犯した。
 そのあと、わたしの鼻先に人差し指をつきつけて、自信たっぷりに言う。

「さては昨日したな」

 ここで、顔を赤くしないでいられる程、図太い神経は持ち合わせていないし、大人でもない。
 わたしはカッと頬を染め、恥ずかしさに耐えきれなくなってシャツの前を掻き合わせていた手で彼女の頭に手刀を叩き込んだ。

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 それから彼女を試着室からなんとか追い出して、試着を済ませる。

「……やっぱり……」

 まーの前で脱がなくてよかった。
 胸にも腹にも紅い華が咲き散らしてある。

 大きな鏡で見れば、やっぱり目を引く赤い痕。
 本来ならここで、「帰ったら雀ちゃんを叱らないと」とか、「キスマーク付け過ぎ! しばらくエッチ禁止!」とか、思わなくちゃいけないんだろうけれど……。

 …………。

 …………だめ。

 嫌じゃないし……むしろ、う、嬉しい気がする……。

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 ひとり、ブラジャーだけ纏った上半身を鏡に映し、キスマークを見つめながら胸を高鳴らせていると、突然、カーテンの向こうからまーの声。

「愛羽、まーだー?」
「も、もうすこし。すぐ出るから」

 どうやら、まーはここから追い出された後すぐに試着をして、もうそれを終えたらしい。
 わたしは慌ててブラジャーを外しながらカーテンの向こうへ言うと、急いで着替えて服装を整え、カーテンを開けたのだった。

 昨晩の事を思い出してしまって頬が赤くなったのは、試着室から出るまでに直らなかったケド。
 それは……しかたないもん。

 それは…………雀ちゃんが、わるい。

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隣恋Ⅲ~ブラジャーの日 2月12日~ 完

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