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イライラする。
黒くてサラサラヘアで、エロ目な男の訪問、これで何度目だ……!?
つーか、どうやって1階のセキュリティドアを抜けてきてんだこの男はっ。
私の後ろをついてきたみたいにして、また潜りこんだのか?
「なぁ。ちょっと」
私は金本さん家の前に立っている男を無視して通り過ぎると、自宅に入った。
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鞄を置きながら携帯電話を取り出してまーさんに電話する。
3コールでぷつっとコール音が切れて、そろそろ聞き慣れてきたまーさんの声が応答してくれた。
『もしもし』
初めて電話した時以外、よそ行きな声を聞いてない。
きっとまーさんがアドレス帳に私の番号を登録してくれたんだと思う。
「あ、まーさん。また来てますよ、あの男」
『ハァ!? また!? もーーーー! すぐ行く。愛羽は?』
「多分、家にいないみたいで、あの男が玄関トコに立ってるんですよ」
電話越しに舌打ちが聞こえた。
「ホントに通報しましょうか。こんだけやったらストーカー規制法とか適用なんじゃないですかね?」
『うーん……そこが良くわかんないのよね。ま、とりあえずすぐ行くわ。愛羽には帰るなってあたしから連絡しとくから』
「はい。お願いします」
『うん。知らせてくれてありがとね』
「いえ、じゃあ失礼します」
通話終了ボタンを押して、溜め息をつく。
このやり取り、何回目かな……。
先々週、私が膝ガクガクになりながら金本さんを守ったあの翌日から、あの男の行動が急変したらしい。
どうも聞く話によると、朝5時くらいから部屋の前に居たり、夜の12時近くまでマンションの下に車を止めていたり、あからさまなストーカー行為を始めたのだ。
で、金本さんを見つけては、復縁を迫る。
つまり、黒くてサラサラヘアで、エロ目な男は、金本さんの元彼なのである。
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あんなヤツに、火曜の夜ギシアン聞かされてたなんて。
金本さん……あの男のドコがよかったんだ……。
あんなのより私の方がずっといいと思う。
「負ける気しないし」
何度も見かけるようになって、彼の体つきを確認して思った。
あれは、絶対、勝てる。
絶対私の方が強いのに。あんなのと付き合うなんて。
でもそれは、金本さんが判断すること、決断すること。
私がどうこう言える事ではない。
でも。
あーーーーーーーーー! イライラするっ!!
なんであんなのにヤキモチ焼かなきゃなんないんだっ!!!
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ガタンガッタンと音が立つくらいフライパンを荒く扱いながら晩御飯を作って、皿に盛る。
本が置いてあるローテーブルまで運んで、その横にオムレツの皿を置く。
本の題名は、六法全書。
法学部の友人にこのことを相談したら、なぜか貸してくれた分厚いこの本。
試しに読んでみたんだが、私には無理だった。言葉が難しすぎて、意味が分からない。
せっかく貸してくれたのにすぐ返すのアレかなと思って、筋トレに使ってるけど……。
「いただきます」
手を合わせて、オムレツをほおばっていると携帯電話がバイブ機能で震えた。
まーさんだ。
『もーしもし、すずちゃん? 今なにしてる?』
「ご飯食べてます」
『そっち行っていい?』
「え? いいですけど、まーさんの分はないですよ?」
『えー』
そう言いながらベランダに現れたまーさん。
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どうやらいつの間にか、金本さん宅に二人で帰っていたらしい。
イライラしすぎて気付かなかった。
「大丈夫でしたか?」
「ええ。あたしがおっぱらってやったわ」
「流石ですまーさん」
「任せなさい」
でもほんと気味悪いわ。
そう言って首を振り、嫌そうに顔をゆがめるまーさん。
まぁ確かに、ここまで付きまとう人、気持ち悪い。
「金本さんは?」
「今お風呂入ってる。今日はあたし泊まってくから」
「あー、明日休みですもんね」
「そ。夜通し枕投げか恋バナでもしようかしら」
……恋バナ……。
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この際だ。
気になっていたコトを聞いてみることにした。
「金本さんは、あの人とよりを戻そうとか思ってないんですかね?」
「それはナイナイ! だって、すごい怖がってるもの。あと見る度にキレそうになってたり」
「怖いのに、キレるんですか?」
「んー、怖すぎてキレるって感じかな。そのうちキレて大喧嘩して追っ払うんじゃない?」
追っ払えたら、いいんですけどね。
大喧嘩のとき男の方が力づくとか、武器持ってたとか、シャレにならない事態は避けたいよな。
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私は身震いした私は、まーさんに言う。
「一人で大喧嘩とかしたら駄目って言っておいてくださいよ? そんな危ないことしたら駄目です」
なにかあったら大変だ。と心配してたらまーさんが、ちょっと笑うではないか。
な、ナゼ笑う。この大変なときに。
私はふざけて忠告した訳じゃないぞ。真剣に心配してるんだぞ。
「すずちゃんって、健気」
「へ?」
「けーなーげ」
「な、私が? なんで?」
なんだ急に。
健気って……もっとこう、儚げな感じの子に使う言葉じゃないのか?
「だって、こないだあんなにぷるぷるしながら愛羽のこと守って。今も心配してくれてるじゃない? 健気以外のなんでもないでしょー」
「ぷ、ぷるぷるって……」
ちょっと気が抜けて、膝に力が入らなかっただけですっ。
「顔赤いよー?」
「もー! うるさいなー!」
傍にあったクッションを、意地悪な笑みを浮かべるまーさんに投げつけた。
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「あれだね、チワワの番犬」
そっくりそっくりと手を叩いて喜びながら、まーさんはベランダに出て金本さんの部屋へ帰って行った。
誰がチワワだ。あんなにブルブルしてないぞ!
「失礼な」
すっかり冷たくなったオムレツを平らげ、片付けてから風呂に入った。
明日も、何事もありませんように。
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それから2週間、あの男の行動は改善されなかった。
むしろ、悪化。
復縁を迫るどころか、金本さんに向かって「ヤらせろ」的な発言をするようになったそうだ。
もう変質者に近い。
あまりに酷いもんだから、私はやめるように何度か言ったけど、ほとんど取り合ってくれなかった。
返ってきたセリフは、
「俺に興味あるわけ?」
と、
「部屋入れてよ」
と、
「俺とヤろうか」
だった。
ヤりたいだけかこの変質者。
ざけんな。キレるぞ。捻り潰してやろうかナニを。使用不可にしてやろうかマジで。
「俺とヤろうか」
と言われた時は、本気で殴ってやろうかと思ったくらいだった。
敵ながら、お前はなんのためにここに来てるんだ!? 金本さん狙いじゃないのか!? とツッコミを入れたくなった。
殴らなかったのは、我ながらよくガマンしたと思う。自分の自制心と理性を褒めてやりたい。
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イライライライラ。
机に広げたノートにシャーペンを打ちつけながら、思考からあの男のコトを排除する。
なにやってるんだ。
勉強しなきゃいけないのに。
溜め息をつくと、斜め後ろから声が掛けられた。
「勉強?」
机についた私の傍に寄って来たまーさんが、ノートを覗き込んでくる。
「テストが近いんですよ」
「そっか。じゃあ邪魔しちゃ悪いねぇ」
「そうですねー」
よしよしわかった、とか言いながら、テレビ前のソファに座るまーさん。
「全然わかってないじゃないっすか!」
ついツッコミを入れて、まーさんの相手をしてしまった。勉強しなきゃいけないのに。
「だぁって暇なんだもん。愛羽、お風呂長いし」
予想通り、いつものセリフが返ってきた。
ここ最近、金本さんのボディーガードをしているまーさんは、暇になると私の部屋にやってくるようになったのだ。
そして「暇、暇」と言いながら雑誌をめくったりゲームをしたり。果ては、私の勉強の手伝い……暗記の相手なんかをしてくれたりする。
そこで発見したことは、彼女は英語が達者ということ。
発音が外国人みたいで、「これどういう意味ですか?」と聞けばすぐに答えが返ってくる生きた翻訳機だった。
暇、暇、とまとわりつくまーさんを金本さんの部屋に追い返し、勉強を再開する。
今度のテストは英語ではないので、まーさんは必要ない。……というか傍でテレビみたりゲームされると気が散って仕方ないのだ。
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