教師パロディ 交際前編 4話

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パロディ 教師 4
金本先生のターン

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 ゴールの網がシュッと音を立てて、ボールが枠の中を通過する。

「わぁすごい!」

 わたしが10回以上投げても入らなかったのに、1回でゴールするなんて。
 歓声に彼女は手でブイサインをしながら「元バスケ部です」と笑う。

 ボーイッシュだなとは思っていたけど、バスケ部だったのか。納得。なんか、似合う。

 何を思ったのか、両膝に手をあてて屈伸とアキレス腱伸ばしを始めた彼女は、ボールを片手にもった宮本君に顔を向けた。

「1on1やろう?」

 ニヤリと笑った顔は、なんだか新鮮だった。

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 わたしは体育館の壁際に避けて、二人のワンオンワン? とやらの試合を見ているんだけど……。

「……すご……」

 体育館の床をシューズが擦って、キュッキュと音が鳴る。なにかのドラマのワンシーンでも見ているような光景だった。
 実際、体育館に3人きりという状況も、普通に生活していたらまずないし、女教師と男子生徒が結構本気で1対1のバスケをやる事態もそうそうある事じゃない。

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 流石に教師と対決っていうので本気を端から出すような生徒ではない宮本君は先攻を譲っていた。だけど、先制点を入れられて、ちょっと闘争心に火がついたみたい。

 どうやら、攻めと守りを交代でするルールらしくて、安藤先生はゴールしたボールを自ら回収しに行って、宮本君へと投げ渡した。
 そして彼がダン、ダン、と床にボールを叩きつけている場所までゆっくりと歩み寄って、安藤先生は低めの姿勢をとった。

 睨み合うような二人の間で、何が試合開始の合図なのかわたしにはわからないけれど、先に動いたのは宮本君だった。
 低い姿勢からドリブルで安藤先生の右をすり抜けると見せかけて左へ華麗にステップを踏む。

 わたしならその段階で抜かれてシュートされてる……。

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 でも帰宅部だったわたしとは違う安藤先生は、バン! というかダン! というか、それはそれはこの無人に近い体育館に響き渡るような大きな音を立てる程の威力の足の踏み込みで彼の行く手を阻んだ。

 少し離れた位置に居るわたしですら、ビク、と肩を揺らしたその衝撃と音に、あれだけの至近距離に居る宮本君が驚かない訳はない。

「隙あり」

 口元に笑みを乗せたまま安藤先生が言って伸ばした手がボールを掠め取る。
 動きが一瞬だけ止まっていた宮本君がしまったという表情を顔に乗せても、時すでに遅し。

 余裕の笑みを浮かべた安藤先生は手の平にボールを乗せていた。

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 ――案外、子供っぽい所もあるのね。

 体育館の壁に寄り掛かって二人の試合を見ながら、心中でそう呟く。
 出で立ちが白衣姿というのもあるのかもしれない。いつも落ち着いた人のように思っていたけれど、子供相手の試合でも一切手を抜かない。本気で掛かっていく。

 まぁ…元バスケ部の血が騒ぐんだろうけれど、あんな楽しそうにしてる安藤先生、初めて見たわ。

 知らず知らずのうちに頬を緩ませてしまうような二人の熱心な試合を中断したのは、体育館のドアが開く音だった。

「すみません。遅くなりました」

 立っていたのは女性。どうやら、宮本君の保護者の方みたいだった。

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 遅くなった事を申し訳なさそうに頭を何度もさげる彼女に、わたしもそれ以上の低姿勢で頭を下げる。
 突然お迎えをお願いしたのはこちらなのだし、仕事をされているなら尚更、仕方のないことだから。

 宮本君を保護者の方へ預けて、わたしと安藤先生で見送る。
 どうも、宮本君が安藤先生をみる目が闘志に漲っている気がしたけど、たぶん、気のせいじゃない。

 それから、体育館の電気を落として、鍵を閉める。
 職員室へと向かいながら窓の外を見るけれど、土砂降りの勢いはあまり変わっていなかった。

 ……この中を帰るとなると、結構……濡れそう。

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 職員室の電気を消して、校長先生から預かった鍵で校舎の出入り口に鍵を掛ける。

 昇降口に横づけしてある車は多分、安藤先生のものだろう。あの白くて大きな車には見覚えがある。

「じゃあ、安藤先生。また来週」

 唯一救いだったのは、今日が金曜日だったということね。
 隣に立つ彼女に手を振ろうとして、安藤先生がまん丸な目をして驚いたようにこちらを見下ろしてくるのに気が付いた。

「何言ってるんですか、送りますよ。金本先生」
「え」
「こんな雨の中、じゃあさよなら、なんて言うと思ったんですか?」

 心外だなぁ、なんて大袈裟に言っている彼女はキーを使って離れた場所から車の開錠をすると、雨の降る中で助手席のドアを開けた。

「乗って」
「いやでも」
「乗ってくれなきゃズブ濡れになるんですが」

 ドアを開く手とは反対の手で、自分の雨の染みの増してゆくジャージを指差す。
 そうされるとやはり従わないわけにはいかなくて、迷う暇もなく開きかけていた傘を閉じて、車へと駆け込んだ。

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 普通の車よりも背が高いこの車、乗り込む際に彼女の手を借りた。
 助手席のドアが閉められ、運転席へと回ってきた安藤先生がひょいと慣れた様子で乗り込んだ。

「でも安藤先生、ほんとにいいの? 帰るの遅くなるわよ?」

 念を押す。だって、もうすでに遅い時間だし、明日休みだからといってもこんなにバタバタした日だ。疲れもあるだろう。
 それなのに彼女は笑いながら首を振る。

「構いませんよ、運転好きだし。金本先生の住所、ナビに入れてください」

 車内中央で煌々と画面を光らせているそれをタッチして入力画面を出した安藤先生は、促すようにわたしに顔を向ける。けれど、流石にそれはできない。

「いやいやいやそんな悪いよ、ほんと。駅までで十分。そこからは電車で帰るから」
「電車、動いてないみたいですよ? ほら」

 ワンセグもついているのだろう。画面をタッチして操作した彼女が、ニュースを出すと、そこには駅でタクシー待ちをしている長蛇の列が映し出された。

「あ゛……ぅ……ごめんなさい、家までお願いしてもいいですか……」
「もちろん。最初からそのつもりですって」

 おかしそうに笑った彼女が、再びナビの入力画面を表示させて、わたしを促した。

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 わたしが入力し終えたナビ画面を眺めて、彼女がすこし目を開く。

「お。案外近いんですね、家」
「え? そうなの?」
「金本先生の家あたり通りすぎて10分くらい行った所に住んでますよ」

 驚きよりも、安堵の方が勝る。
 ただでさえ、送ってもらうだなんて迷惑かけているのに、反対方向とかじゃなくて良かった。

 車を発進させた安藤先生は片手でハンドルを捌きながら、もう片手で器用にシートベルトを締める。
 わたしも倣うようにシートベルトを締めて、ゆっくりと背もたれに体を預けた。

 速めのワイパーと、叩きつける雨を眺めていると、隣からぬっと視界に差し出されたのは、ガムのボトルだった。

「食べますか?」

 よく見れば、この間男子生徒に”2ヶ月くらい開けてない”とか言っていたそれ。
 顔を引き攣らせて動きを固めるわたしをチラと横目で不審そうにみた彼女は、数秒後、思い出したように笑った。

「ケン君に言った事は嘘ですよ。あの日の前日に買ったばかりだし、これ。飴なら食べれば無くなるけど、ガムは学校内のどこに吐き捨てるかわからないですからね」

 はい、色んな味あるから好きなの食べてください。とわたしの手にボトルを預けた彼女は、にやにやしながら運転する。

「まさか金本先生まで信じてるだなんて。そんな汚い人間に見えてましたか」
「そ、そういう訳じゃないけどっ」

 慌てて取り繕うわたしを、彼女はまた可笑しそうに笑った。

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「このマンションですか?」
「あ、うん。そう」

 自宅マンションの横に車が滑らかに停車して、安藤先生の手がハザードのボタンを押す。

「本当、ありがとうございました。助かりました、安藤先生」

 大袈裟に見えるかもしれないが、わたしはシートベルトを外して運転席の彼女に頭を下げた。
 この大雨の中、電車とバスと歩きでここまで帰ってくる事を考えれば、その何十倍も安全に帰ってこられた。

「帰り道みたいなもんですから、気にしないでください」

 いやいやと手を振り笑顔をみせてくれる彼女に、もう一度お礼を言ってわたしは荷物を持つと車から降りた。車のハザードが消えて、運転席で安藤先生が会釈をしてゆっくりと車が進み出す。

 最後に軽くクラクションを鳴らして走り去っていく車を見送って、わたしはマンションのエントランスへ向かった。

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